銀河の中心核から噴出したガス、90倍に増光

【2009年4月21日 HubbleSite

楕円銀河M87では、中心に潜む巨大なブラックホールの活動に伴って、高速のジェットが噴き出している。ハッブル宇宙望遠鏡が7年がかりでとらえた画像から、ジェット中でガスの塊が増光を繰り返しながら、中心核をしのぐ明るさを放っていたことが明らかとなった。


(HSTがとらえたガスの塊「HST-1」の画像)

HSTがとらえたガスの塊「HST-1」(観測年は、左上から右へ順に1999年〜2006年)。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, and R. Sharples(University of Durham))

約5400万光年の距離にあるM87は、おとめ座銀河団に属する銀河の1つである。その中心核に存在するブラックホールは、現在知られているものとしては最大級だ。ブラックホールの活動によって、高温のガスが高速のジェットとなって銀河の中心から噴き出している。1999年、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による観測でジェット中にガスの塊「HST-1」が発見された。HST-1は、銀河中心核から約214光年の距離に位置している。

カナダ・マックマスター大学の天文学者Juan Madrid氏は、HSTが1999年から7年がかりでとらえたジェットの画像から、HST-1の明るさが変化していることに気づいた。

HST-1は1999年から2001年に著しい増光を見せ、2002年から2005年の間にも増光を見せた。2003年には、超巨大ブラックホールのエネルギーで輝く銀河中心核の明るささえも上回り、2005年5月には1999年に比べて90倍もの明るさとなった。その後は一時暗くなったものの、再び2006年11月に明るくなった。

HST-1は、これまでHST以外の望遠鏡によっても何度も観測されている。しかし、明るさが変化する要因はわかっていない。現象を説明するもっとも単純なメカニズムとして、観測ではとらえられていないガス雲などへジェットが衝突することがあげられている。また、第2の可能性としては、ブラックホールのまわりにある磁力線の束がきつくねじれることで、莫大なエネルギーを爆発させているのではないかと考えられている。

このような明るさの変化は、遠方銀河の中心に潜むブラックホールの活動を知るために役立つと考えられている。Madrid氏は、今後の観測でHST-1の活動メカニズムが明らかにされることを期待している。