板垣さん発見の超新星、もっとも「軽い」星の爆発だった
【2010年5月21日 広島大学/東京大学 数物連携宇宙研究機構】
板垣公一さんが2005年7月に発見した超新星2005czが、これまで見つかっていなかった「軽い」星が起こした超新星爆発であることが明らかになった。質量が太陽の10倍程度の星が起こす爆発は、理論上は数多く存在すると予測されていたが、観測によって直接確認されたのはこれが初めてのことである。
超新星爆発は、スペクトルの特徴から大きく「I型」と「II型」とに分けられ、さらに「I型」も「Ia型」「Ib型」「Ic型」と分類されている。そのうちのIb型では、星が連星系を形成している場合に、一方の星の外層(水素の層)がもう一方の重力によってはがされてヘリウムを主成分とした星となり、やがて爆発する。
宇宙には質量の軽い星ほど多く存在しているので、太陽の8〜12倍程度の「軽い」星は、超新星爆発を起こす星の中ではもっとも多いはずだ。また、星は連星系を成していることが多いので、このような星の多くはIb型の超新星爆発を起こすと考えられる。しかしこれまで、太陽の約8〜12倍という「軽い」星を起源とするIb型の超新星爆発は観測例がなかった。そのため、そのような星が本当に爆発を起こすのかどうかは謎であった。
その謎が、超新星ハンター 板垣公一さんによって発見された超新星2005czによって解決した。広島大学や東京大学 数物連携宇宙研究機構などからなる研究グループが、超新星2005czは超新星爆発で生涯を終える星の中ではもっとも軽い、太陽の10倍程度の質量を持つ星が起こしたIb型の爆発であることを明らかにしたのだ。
板垣さんが超新星2005czを発見したのは2005年7月17日(世界時)である。その後間もなく、この超新星はIb型と同定されたものの、いくつか奇妙な点があった。大質量星を起源とする超新星爆発は起きないとされる楕円銀河で発生したこと、超新星としてはひじょうに暗いこと、そして通常の超新星よりも急速に減光したことである。さらに、発見から約半年後にすばる望遠鏡が行った分光観測によって、スペクトルが通常のIb型超新星と異なっていることも明らかになった。
このスペクトルの特徴、さらに超新星が暗いことや急速な減光は、爆発前の星が太陽の約8〜12倍の質量を持つ「軽い」星であると考えると、うまく説明できる。また、超新星2005czが発生した楕円銀河NGC 4589は通常の楕円銀河とは異なり、宇宙的な時間スケールで考えると最近に星形成を行ったこともわかりつつあり、最後の星形成の生き残りが太陽の10倍程度であることを示す証拠も得られている。これらの理由から研究グループは、超新星2005czは太陽の8〜12倍という「軽い」星が起こしたIb型の超新星爆発であると結論付けたのだ。
今回の研究によって、現在の星の進化理論が大筋で正しいことが検証された。これまでに同種の超新星が発見されていなかったのは、予想以上に暗かったことと急速な減光が原因の一部だろうと考えられている。