地球に降り注ぐ宇宙線の強度分布に不思議なムラ

【2010年7月30日 University of Wisconsin-Madison

南極大陸で建設が進められているニュートリノ検出器「IceCube(アイスキューブ)」が集めたデータから、検出器の完成を前に、地球の南半球に向かって降り注いでいる宇宙線の強度が均一ではなく、飛来してくる方向によって違いのあることが明らかになった。


(「アイスキューブ」が2009年に取得したデータから作成された宇宙線強度分布図)

「アイスキューブ」が2009年に取得したデータから作成された宇宙線強度分布図(提供:courtesy IceCube collaboration)

南極大陸で2005年から建設が進められている巨大ニュートリノ検出器「アイスキューブ」は、日本も参加する国際共同観測プロジェクトで、2011年の完成を前に2006年からすでに一部観測を開始している。

その「アイスキューブ」が2009年に集めたデータから、地球の南半球に向かって飛来してくる宇宙線の強度分布図が作成された。

米・ウィスコンシン大学マディソン校のRasha Abbasi氏らの研究チームは、その分布図を見て、宇宙線の強い空域と弱い空域があることに気づいた。つまり、粒子のやってくる方向によって強度が異なる「異方性」が認められたのである。似たような特徴は、以前に北半球で行われた実験でも見られたのだが、いまだその起源はわかっていない。

ニュートリノの検出を目指す「アイスキューブ」には、別の種類の粒子も継続的に飛来してくる。その中には、地球の大気と作用して発生するような粒子も多数含まれており、それらは「アイスキューブ」にたずさわる物理学者らにとっては、単なる背景ノイズとしか見えない。

Abbasi氏は「『アイスキューブ』の目的は宇宙線の観測ではありません。そのため、背景のノイズと考えるのは当然のことです。しかし、地球へ飛来してくる、その宇宙線こそがひじょうに興味深いのです」と話している。

実は、宇宙線強度の強い場所の1つが、地球に比較的近い「ほ座超新星残骸」の位置と一致していたのである。そのため同氏は「南半球の空に見られるこの異方性は、どこかで起きている現象の影響によるものなのです。影響を及ぼしているのは、地球を取り巻く磁場か、地球に比較的近い距離に位置する超新星残骸かもしれませんが、その起源はまだわかりません」と話している。

アイスキューブ計画のグループでは、Abbasi氏らが発見した異方性の起源に迫るため、より詳細な分析を進めている。その結果を待つAbbasi氏は「(わたしたちの発見が)長年のなぞであった高エネルギー宇宙線の起源に迫る証拠になるかもしれません。とてもわくわくします」と話している。

「アイスキューブ」

東京大学宇宙線研究所の神岡宇宙素粒子研究施設である「スーパー・カミオカンデ」の2万倍もの大きさ(約1立方kmの容積)を持つ巨大検出器。ニュートリノは存在量が極めて少ないため、大規模な装置が必要とされ建設されることとなった。

「アイスキューブ」では、「スーパー・カミオカンデ」で使用されているような水タンクの代わりに、南極にある天然の水である氷河を利用する。南極点の氷河を切削し、深さ1,400〜2,500mの地点に計4,800個の光検出器を設置する。その検出装置の中核である光電子倍増管の開発は、「アイスキューブ」の建設プロジェクトに日本から参加している千葉大学が担当している。