暗黒モンスター銀河に原始クエーサーの最有力候補を発見
【2010年11月25日 国立天文台野辺山】
銀河の過密領域で、銀河核からクエーサーに進化する過渡期にある原始クエーサーの候補が発見された。原始クエーサーが見つかった銀河からは太陽の2兆倍のX線が放射されており、巨大ブラックホールの急激な成長を示す強力な証拠となっている。
クエーサーとは可視光でひじょうに明るく輝く銀河核で、100〜120億年前の宇宙に10万個を探して1個見つかる程度のひじょうにまれな天体だ。宇宙でもっとも明るい天体の1つであるその莫大なエネルギー源は、巨大ブラックホールの強力な重力だと考えられている。通常の銀河核からクエーサーに進化する過渡期にある銀河核は、「原始クエーサー」と呼ばれる。
国立天文台の田村陽一研究員、伊王野大介助教が率いる日米英メキシコの国際共同研究チームは、みずがめ座の方向約115億光年の距離に原始クエーサーと認められる特異天体を発見した。クエーサーの成長が促進されると予想される銀河の過密領域で原始クエーサーと思われる天体が発見されたのは、世界初のことだ。
クエーサーの形成については、ガスが豊富な複数の銀河同士の衝突合体によってガスがブラックホールに急激に供給されることによって生じるとする説が有力になっている。仮説の検証には、クエーサーの前段階にある原始クエーサーをモンスター銀河の中心に見つける必要がある。しかし、原始クエーサーは濃いガス(暗黒星雲)に包まれていると予想されており、発見がきわめて困難だ。
研究チームは2009年に、地球から約115億光年の距離にある銀河の合体が生じやすい銀河の過密領域にモンスター銀河を発見していた(参照:ニュース「初期宇宙にモンスター銀河の群れを発見」)。その中からもっとも規模が大きいものを、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのサブミリ波干渉計(Submillimeter Array)や日本のサブミリ波望遠鏡アステ、すばる望遠鏡など7つの望遠鏡を使って観測した。
その結果、濃いガスを透過する電磁波(サブミリ波、赤外線、X線)で、前述のような原始クエーサーの検出に成功した。また、観測で明らかになったX線の全放射エネルギーは太陽の2兆倍にも達していた。このエネルギーの発生機構を自然に説明できるのは巨大ブラックホールの急激な成長だけだ。このモンスター銀河は巨大ブラックホールの揺りかご、原始クエーサーである可能性がきわめて高いことがわかった。
なお、すばる望遠鏡による可視光観測では対応する天体は見つからなかったが、これは銀河全体を包む分厚い暗黒星雲が可視光を遮さえぎってしまうためと考えられている。
今回発見された天体は、これまで謎の多かった巨大ブラックホールの成長過程を観測的・理論的に理解するうえで、絶好の研究対象になると期待されている。