ブラックホールのジェットが銀河周囲のガスを暖め続ける現場

【2010年12月14日 Chandra X-ray Observatory

楕円銀河NGC 5813の周囲に複数のガスの空洞が発見された。それらは300万年前、2000万年前、9000万年前に銀河の中心に潜むブラックホールからジェットが噴出して作られた構造だ。空洞が周囲のガスに押し込まれて衝撃波が発生し、それによって周囲のガスは暖められ続けている。


(NGC 5813周辺の温度分布の画像)

X線と可視光の波長による観測で得られた、NGC 5813周辺の温度分布。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/SAO/S.Randall et al., Optical: SDSS))

(ブラックホールから過去に数回噴き出したジェットで形成された空洞を示した画像)

ブラックホールから過去に数回噴き出したジェットで形成された空洞(黄:空洞、白:衝撃波)。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/SAO/S.Randall et al.)

地球から約1億500万光年の距離に位置するおとめ座の楕円銀河NGC 5813の周囲が観測され、温度分布図が作成された。かつてないほど詳細なこの分布図によって、銀河中心核の活動の歴史が明らかになった。

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのScott Randall氏らの研究チームは、NASAのX線観測衛星チャンドラの画像と、インドの望遠鏡GMRTおよび南米チリの望遠鏡SOARによる観測データを合わせた結果から、過去数回にわたる超巨大ブラックホールの活動によってガスの空洞が銀河の周囲にできていることを明らかにした。それらの空洞は、銀河核から活発なジェットが噴出された年代と一致しており、300万年前、2000万年前、9000万年前の活動によるものとみられている。

1枚目の画像中の円形内には、擬似カラーで銀河周辺の温度が示されている。もっとも高温は赤、低くなるにつれて、オレンジ、黄色、緑、青の順となっている。また、図中に示されている数字は具体的な温度を示しており、たとえば8.4は840万度を意味している。注目すべきは、差し渡し数十万光年もの広大な領域において、3割程度の温度差しかない点だ。

何か熱源がなければ、ガスはエネルギーを失い、温度が低くなるはずだ。ガスが冷えないのは、銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールのジェットが熱を供給しているからである。ブラックホールに向かってガスが回転しながら落ち込むとジェットが形成され、その強力なジェットによって空洞ができる。空洞は熱いガスが広がる周囲の空間へ押し込まれ、衝撃波が起こり、ガスが加熱されるのである。逆にこのプロセスによって、星を形成する材料となる冷たいガスの量は減少していく。

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