南極で発見の隕石からアンモニアの発生を確認
【2011年3月8日 PNAS】
南極で発見された始原的な隕石から多量のアンモニアが発生することがわかった。これは、地球で生命が誕生するときに必要な形の窒素の供給源として大きな役割を果たしていた可能性もあり、生命誕生の条件に隕石が大きな影響を与えていたことを示唆している。
小惑星から飛来してきた隕石のうち炭素質に富んでいる「炭素質コンドライト」と呼ばれる隕石には、アミノ酸をはじめとして様々な有機物が発見されている。この有機物の存在から、また時には形状の類似性から、生命の起源となった物質や生命そのものも宇宙からやってきたと主張する人もおり、議論が行われている。
このような有機物の分析は隕石を用いて行われることが多く、炭素質コンドライトの中でも「CRコンドライト」(注1)と分類される隕石にはアラニンやグリシンのような水溶性の有機物が多量に存在していることがわかっている。
CRコンドライトに分類される南極隕石(注2)「GRA95229」に含まれる非水溶性の有機物の分析を、地球の物質によって汚染されないよう慎重に行った結果、熱水で処理を行うと多量のアンモニアが発生することが確認された。
アンモニア(NH3)は窒素と水素で構成される。水素は太陽系の中で1番目に、窒素はヘリウムのような希ガス(注3)を除けば4番目に多い元素であり、地球でも生命活動に必須なDNAやRNA、たんぱく質を構成する非常に重要な元素である。
窒素は生命活動に必須な元素ではあるものの、生命活動に必要な形の窒素(注4)は現在の大気に見られる中性な窒素分子ではいけない。しかし生命が誕生する前の原始地球で生命活動に必要な形の窒素がどの程度存在していたのか推定することは難しい。近年の地球化学的な研究結果によると、原始地球は中性大気になっていたためにアンモニアなどの形の窒素は太陽光によって反応してしまい、安定して存在できなかったのではないかと考えられている。
隕石からアンモニアが発生するということは、生命活動に必要な形の窒素は隕石から供給された可能性を示唆しており、生命の誕生にはこれらの隕石から出てきたアンモニアが大きな役割を果たしてきたのではないかと考えられる。生命がどのように誕生したのかは大きな謎であり、今回の研究は生命誕生の謎を解く鍵となるだけでなく、生命が誕生した頃の地球の環境を探る鍵となるのではないかと感じさせる。
注1:「CRコンドライト」 炭素質コンドライトは元素や鉱物の組成、水や熱によって受けた変成の度合いによってCV、CO、CI、CRなどいくつかのタイプに分類されている。
注2:「南極隕石」 南極に隕石が落ちてくるとすぐに雪に埋まり、氷の中に長い間閉じ込められているため、砂漠で拾われた隕石と比べて風化の影響が少ない。南極の氷は「対流」しているため、氷の蒸発が激しいところで地表に出ている隕石が南極隕石として拾われている。
注3:「希ガス」 ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)などからなるガスの総称で、地球上での存在量が少ないことや他の元素とほとんど反応しないなどの特徴を持つ。
注4:「生命活動に必要な形の窒素」 生命に必要なのはアンモニアなどの還元的な窒素であり、中性の窒素分子や酸化的な窒素(NOxなど)ではその役割を果たすことができない。