ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた小天体同士の衝突

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【2011年5月2日 HubbleSite

小惑星帯にある小天体シャイラが2010年12月に突然増光した原因は小天体同士の衝突であることが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測によってわかった。このような衝突を観測できたのは2回目で、貴重な観測データが得られた。


(ハッブル宇宙望遠鏡によって2010年12月27日に撮影されたシャイラの画像)

ハッブル宇宙望遠鏡によって2010年12月27日に撮影されたシャイラ。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, D. Jewitt, and M. Mutchler)

(スウィフトによって2010年12月15日に撮影されたシャイラの画像)

スウィフトによって2010年12月15日に撮影されたシャイラ。可視光と紫外線の合成画像。シャイラの上下にダストが噴出している様子がぼんやりと確認できる。クリックで拡大(提供:NASA/Swift/DSS/D. Bodewits)

シャイラ((596) Scheila)は1906年に発見された、小惑星帯にある天体である。2010年12月11日にこのシャイラが突然増光を見せたが、その原因がメインベルト彗星(注1)としての活動であるのか、小惑星同士の衝突であるのか、よくわかっていなかった。

彗星核には大量の氷があり、太陽の熱によって揮発して増光する。一方、小惑星は岩石の塊であり、衝突によって増光する。一般的にはこのように考えられてきたが、実際はもっと複雑であることがわかってきている。例えば一度小惑星として認識された後に数ヶ月も増光が続き、彗星のような兆候を見せる天体も見つかっている。

このシャイラも2010年12月に突然2倍ほども明るくなり、彗星の可能性があると指摘されていた。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡とスウィフト宇宙望遠鏡の観測によって、彗星ではなく小惑星であるということがわかった。

彗星には大量の揮発性物質が含まれているので、シャイラを取り巻いている成分が何であるかを調べれば彗星なのか小惑星なのか区別を付けられる。今回の観測の結果、彗星によく見られるようなヒドロキシル基やシアンといったものが発見されず、彗星ではない可能性が高いことがわかった。NASAの探査機「ディープインパクト」はテンペル彗星(9P)の中に大量の水を発見したが、シャイラにはその水が見つからなかったことからも、彗星とは異なる可能性が高いといえる。

また、2つの方向にダストが放出されており、計算の結果これは30度以下という非常に浅い角度からの小さな天体の衝突で上手く説明できることがわかった。シャイラは長辺が約110kmの天体であるが、そこに直径30mほどの天体が衝突し、直径300mほどのクレーターを残していると予想される。またこれによって舞い上がったダストは66万トンにも及ぶと考えられている。

このような衝突の跡を見ることができれば、彗星や小惑星の内部をのぞき見ることができる。このような小惑星同士の衝突が発見されたのは、2009年に観測されたP/2010 A2に次いで2例目となる。

注1:メインベルト彗星 メインベルト(小惑星帯)にある彗星。軌道のある部分に差し掛かったときのみ太陽の熱の影響で彗星のようなコマや尾が現れるが、普段は普通の小惑星と区別が付きにくい。