地球の酸素、23億年前の気候変動時に急増していた
【2011年10月21日 東京大学】
地球上のほとんどの生物に欠かせない酸素。その酸素がいつから地球大気に存在していたのかというのははっきりしていなかったが、どうやら23億年前、全球凍結から温暖期に移行する際に急増したことがわかった。酸素が必要な生物誕生の環境を探る上で重要な発見となりそうだ。
現在地球大気の21%を占める酸素は、地球誕生時からずっと存在していたのではなく、あるとき突然増えたことがこれまでの研究でわかっていた。特に約20〜24億年前に急激に増えたことが様々な地質学的な証拠として残っているが(注1)、具体的にいつごろか、というのはよくわかっていなかった。
東京大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究チームがカナダ・オンタリオ州にある約22〜24.5億年前の堆積岩の地層を調べたところ、およそ23億年前に酸素濃度が急増し、生物の栄養となる元素が大量に海に流れ込んだことが判明した。
今回の研究では、オスミウム(注2)という元素が調べられた。オスミウムは酸素濃度が増えるとイオン化して溶け出すため、酸素濃度が急増した時に溶け出したオスミウムが沈殿して堆積岩の中に取り込まれることを利用した。
さらに、大陸から流れ出てくるオスミウムは海底のものとは同位体比(注3)が異なるため、同位体比を調べることで、風化によって大陸から流れ出てきた度合いを調べることができる。
その結果、およそ23億年前、氷河期が終了し温暖化していく時期にオスミウムが急増、つまり酸素濃度が急激に上昇したことが確認された。また、オスミウム濃度と同じくオスミウム同位体比も上昇していたため、風化作用によって大陸の岩石に含まれていたさまざまな元素が海へと流れ出ていったことがわかった。
なぜ酸素が急激に増え始めたのか、その理由はよくわかっていないが、この研究によって以下のような仮説が考えられる。
今から約23億年前、地球はほぼ全球を氷河で覆われてしまうような大氷河期(注4)にあった。その氷河期が何らかの理由で終了して温暖化が進む過程で、急激に風化が進み生物の栄養塩が海に大量に流れ込んだ。光合成を行う生命が急激に繁殖した結果、大気中の酸素濃度が急増した。そのため、それまで大気中にあったメタンなどが酸化して温室効果ガスの効果が減少し、再び地球が氷河期になり、また回復期に酸素が大気中へと放出される。
この時代には全球凍結を含む破滅的な氷河期が繰り返し起きていたことが知られており、温暖化するときの酸素放出が、大気に酸素が十分満ちるまで行われていたのかもしれない。
人間を含む多くの生物の祖先(真核生物)は、酸素が急激に増えた約20億年前に誕生したと考えられている。この発見は、高等生命の誕生や気候と生物圏の関係、ひいては地球外生命の存在の可能性にも重要な示唆を与える結果と言えそうだ。
注1:「酸素急増の証拠」 これまで、酸素が急増した時期については、縞状鉄鉱床のような酸化物が突然たまっている地層や、酸素がないときに形成される硫化物を含む地層から年代をしぼりこむことしかできなかった。
注2:「オスミウム」 原子番号76番でOsと表記される。貴金属であり、材料科学として価値のあるレアメタルでもある。地球科学では放射性同位体元素のレニウム(Re)の娘元素としても知られ、これを利用してこの研究では大陸起源かどうかを判断している。
注3:「同位体」 陽子の数が等しいため同じ元素に分類されるが、中性子の数が違うことで質量が異なる原子のこと。オスミウムは質量数が184、186、187、188、189、190、192の7つの安定同位体を持つ。
注4:「全球凍結」 1980年代後半、約6億年前の氷河堆積物の研究によって、当時の赤道にも氷床が存在したという地質学的な証拠が発見され、地球の表面全体が氷に覆われたことがあると言われ始めた。22〜23億年前の地層でも同様な証拠が見つかっており、地球は何度か全球凍結を経験したと考えられるようになっている。