巨大「草食系」ブラックホールにもガスジェット
【2013年9月10日 国立天文台水沢】
日伊の研究チームにより、ひじょうに活発な銀河中心ブラックホールに見られるガスジェットが、活動が穏やかなタイプのものにも小規模ながら存在することが初めて明らかになった。ブラックホールの周辺メカニズムをさらに詳しく知る手がかりとして期待される。
多くの銀河の中心部には、太陽の約100万〜100億倍もの巨大質量を持つブラックホールがあることが知られている。こうしたブラックホールの一部は、重力で物を吸い込むと同時に光速に近いガスジェットを数千〜数万光年にもわたって噴出しており、きわめて高いエネルギー現象として観測される。
こうしたわかりやすい「肉食系」ブラックホールに対して、多数派である「草食系」ブラックホールは活動が弱いため、そのようすを詳しくとらえることはこれまで難しかった。
国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘研究員らの研究チームは、全米10台の電波望遠鏡を組み合わせて利用し、おとめ座の方向約2900万光年彼方のソンブレロ銀河(M104)を詳細に調べた。ソンブレロ銀河の中心部には巨大質量の草食系ブラックホールがある。
研究では1度角の約2600万分の1という高解像度での観測を行い、シュバルツシルト半径(光を含めすべてのものがブラックホールの重力で飲み込まれる境界)のわずか数十倍程度の領域にまで迫った。その結果、全長1光年程度の小規模なガスジェットがブラックホールの南北に噴出するようすがとらえられ、肉食系だけではなく草食系ブラックホールにもガスジェットが存在することが初めてわかった。観測では、ジェットの速度や立体的な噴出方向まで明らかになっている。
天の川銀河の中心ブラックホールのようにさらに活動が弱い「絶食系」にもジェットが存在するかどうかや、ジェットの噴出が起こる詳細なメカニズムなど、未解明の部分もある。今回の成果はこれらを解く重要な手がかりとなるとともに、現代科学の究極の目標の一つである「ブラックホール本体の直接撮像」の実現に向けて大きな弾みとなるという。