60億光年彼方のブラックホール、自転速度を直接測定
【2014年3月6日 X線天文衛星チャンドラ】
60億光年彼方の超大質量ブラックホールが、光速の半分のスピードで自転していることがX線観測からわかった。ブラックホールの自転速度からその成長過程がうかがえるため、ブラックホールとその母銀河の進化を探る画期的な手がかりとなる。
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」などの観測から、60億光年彼方にある銀河中心ブラックホールの自転速度が直接計測された。これほど遠方にあるブラックホールとしては初めての例だ。
米ミシガン大学のRubens Reisさんらが調べたのは、コップ座の方向にあるクエーサー「RX J1131-1231」で、ちょうどその手前(地球とクエーサーの間)にある巨大楕円銀河の「重力レンズ効果」によって光が増幅されたおかげで詳しい観測が可能となった。
クエーサーは、銀河中心の超大質量ブラックホールの活動がエネルギー源となり、遠くにあるにも関わらずひじょうに明るく見える天体だ。ブラックホール周囲にはその重力で集まったガスと塵が円盤状に渦巻いている。研究では、ブラックホールに落ち込む間際の物質から放射され円盤の内縁で反射されたX線をスペクトル分析した。その結果、X線は「事象の地平線」(注)の半径のおよそ3倍しかブラックホールから離れていないところから来ていることがわかった。
ブラックホールの自転が速いほど周囲の空間はゆがめられ、降着円盤は内側まで迫ってくる。計測された距離からすると、RX J1131-1231のブラックホールは光速の50%を越える速さで自転していることになる。
この自転速度から、このブラックホールはかつて起こった銀河同士の衝突合体で供給された物質で主に成長してきたことが推測される。物質を安定的に取り込むことでブラックホールの自転は加速される。もしランダムな方向から物質を集めていれば、自転は加速されず遅いままのはずだ。
ブラックホールの性質は質量と自転という2つの要素で決定づけられる。質量の計測方法は確立されている一方で、遠方のブラックホールの自転速度の計測はこれまで困難とされてきた。遠方、つまりはるか昔のブラックホールの成長過程をかいま見せる今回の研究は、ブラックホールと銀河の進化過程を解明するための画期的な手法を提示したといえる。
注:「事象の地平線」 ブラックホールの周囲で、それ以上近づくと重力が強くなり光や物質が逃げ出せなくなるような境界を「事象の地平線」と呼ぶ。