奇妙なハイブリッド「ソーン・ジトコフ天体」の候補を初検出

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【2014年6月13日 University of Colorado at Boulder

見た目は赤色超巨星だが、その中心には巨星に飲み込まれた中性子星が存在しているという奇妙な「ソーン・ジトコフ天体」。40年前に提唱され、これまで仮説上の存在だったが、その候補が初めて検出された。


ソーン・ジトコフ天体の想像図

ソーン・ジトコフ天体の想像図。クリックで拡大(提供:NASA/Corbis)

ソーン・ジトコフ天体(TŻO)は、1975年にKip ThorneさんとAnna Żytkowさんが提唱した、赤色超巨星と中性子星から成るハイブリッドな星だ。表面上はオリオン座のベテルギウスのような赤色超巨星に似ているが、同天体内部で起こっている独特の活動のため、そのスペクトルは赤色超巨星のものとははっきりと異なる。

ソーン・ジトコフ天体の生成メカニズムははっきりとはわかっていないが、もっとも受け入れられている理論は、進化の段階で2種類の天体が互いに影響を及ぼし、はるかに大きな赤色超巨星が中性子星を飲み込むというものだ。飲み込まれた中性子星は、赤色超巨星の中心へとらせん状に落下するとされている。普通の赤色超巨星が核融合反応でエネルギーを生み出すのに対して、ソーン・ジトコフ天体は飲み込まれた中性子星の特異な活動がエネルギー源となっている。

米・コロラド大学ボールダー校のEmily Levesqueさんらの研究チームは、チリのラスカンパナス天文台に設置された口径6.5mのマゼラン望遠鏡での観測から、ソーン・ジトコフ天体の候補を発見した。

複数の赤色超巨星のスペクトルを観測し、どのような元素が存在するのかを調べたところ、小マゼラン雲に存在する「HV 2112」のスペクトルの特徴がとても特異であることが明らかになった。かすかなスペクトル線に、ルビジウム、リチウムやモリブデンが過剰に含まれていたのだ。普通の星でもこれらの元素は生成されるが、赤色超巨星の典型的な温度下においてこれらの元素が多いというのは、ソーン・ジトコフ天体を示す証拠となる。

とはいえ、HV 2112のスペクトルの特徴は理論モデルと完全には一致していない。研究チームのMasseyさんは「わたしたちがまちがっている可能性も、もちろんあるかもしれません。理論的予測と観測結果との間に、さほど重要ではないにしても、矛盾点がいくつかあります。元の理論的予測は古く、最初に予測がなされてから理論にかなりの改良が加わっていますから、わたしたちの発見が理論的研究を進展させることを願っています」と話している。