非対称性検証へ、陽子の磁気モーメントを超高精度で測定
【2014年6月19日 理化学研究所】
理化学研究所などの国際共同チームが、物質と反物質の違いを観測する試みとして、陽子の磁気モーメントを誤差10億分の3.3という高精度で測定することに成功した。同様の新手法で反陽子についても測定することで、宇宙誕生時に物質と同じ量だけ作られたはずの反物質が現在ほとんど見あたらないという謎の検証につながると期待される。
宇宙の始まりの際には、物質と反物質(注1)が同じ量現れたと考えられている。理論上、物質と反物質は対(つい)になって現れる、あるいは対になって消える(対消滅)ことしかできないので、物質と反物質は同じ量残るはずだ。だが現在の宇宙は物質だけで成り立っていて、反物質で成り立つ星の痕跡や兆候は観測されていない。物質と反物質が完全に対消滅しなかったために一部の物質が生き残ったものと考えられるが、なぜそのようになったのかは現代物理学の大きな謎の1つとなっている。
これを説明するために、物質と反物質の違いを観測する試みがこれまでに数多く行われているが、なかでも物質と反物質の磁気モーメント(注2)を比較する研究に期待がかかっている。わずかでも両者の磁気モーメントの違いを発見できれば、上記のような「物質−反物質非対称性」の説明が可能になるからだ。
理化学研究所のステファン・ウルマーさんらと独・マインツ大学重イオン研究所、マックス・プランク物理学研究所の共同研究チームは今回、陽子と反陽子のうち一方である陽子の磁気モーメントを超高精度で求めることを試みた。
実験では、磁場と電場で荷電粒子を捕獲して荷電粒子の質量や磁気モーメントを高精度で測定する「ペニングトラップ」という装置を使用し、新たに開発した手法で直接測定した。その結果、相対誤差(真の値に対する誤差の割合)が10億分の3.3(3.3ppb)という超高精度な測定値を得ることに成功した。これは従来のペニングトラップによる直接測定の精度を約760倍引き上げ、また42年前に行われた間接測定の精度を2.5倍高めるものだ。
研究チームは今後、同じ手法を適用して反陽子の磁気モーメントをこれまでの1000倍以上の精度で測定することを目指している。陽子と反陽子の高精度測定結果がそろえば、物質−反物質対称性のより厳密な検証が期待される。
注1:「反物質」 反粒子からできている物質。粒子と反粒子は同じ性質を持つが、電荷と磁気モーメントの符号は逆である。
注2:「磁気モーメント」 陽子の内部にはコンパスの針のようなものがあり、磁気モーメントはそのコンパスの針が磁場の中で受けるトルクの強さを表す。