29年ぶりに新星爆発、いて座V3890
【2019年8月29日 VSOLJニュース】
著者:前原裕之さん(国立天文台)
新星は、白色矮星と低温度の主系列星ないし赤色巨星からなる連星で、低温度星から白色矮星へ水素が流れ込み、白色矮星の表面に降り積もった水素が爆発的な核燃焼を起こすことで非常に明るくなると考えられています。
新星爆発の後も白色矮星と低温度星は健在なため、一度新星爆発を起こした後、しばらくすると白色矮星の表面には低温度星から流れ込んだ水素が降り積もり、爆発を起こすのに十分な量になれば再び新星爆発を起こすと考えられています。とはいえ、典型的な新星の場合、一度爆発してから再び爆発するまでには数千年から十万年程度の時間がかかるとされ、人間の一生程度の時間スケールでは、同じ星が複数回の新星爆発を起こすのを見ることはできません。
ところが、新星の中にはごく少数ですが、新星爆発を1年から数十年程度の間隔で繰り返す天体も見つかっており、「反復新星(再帰新星、回帰新星、再発新星)」と呼ばれています。天の川銀河内では、さそり座Uや、らしんばん座Tなど、10個程度が知られています。このほど1990年4月以来29年ぶりに新星爆発を起こした「いて座V3890」も、このような反復新星として知られていた天体です。
いて座V3890は、米・Maria Mitchell天文台で撮影された写真乾板から変光星を探していたH. Dinersteinによって、1973年に発見されました。1962年6月2日に撮影された写真には、この天体は8.4等で写っていましたが、発見前の5月10日に撮影された写真には、この天体は15.2等以下で写っていませんでした。正確な増光の日付はわからなかったものの、1か月以下の短期間に少なくとも6.8等もの増光を示したことから、この天体は新星の可能性があると考えられました。
1962年の増光から28年後の1990年4月27.72日、この天体が再び8.5等に増光したことがニュージーランドのA. Jonesによって発見され、その後の一連の観測によって、この天体が反復新星であることが明らかになりました。最初に発見された新星爆発から1990年の新星爆発までの時間が28年だったため、そろそろ次の新星爆発が起こるのではないかと期待されていました。
今回の新星爆発を最初に発見したのは、ポルトガルのAlfredo Pereiraさんで、8月27.870日(日本時間28日午前6時ごろ)にこの天体が6.7等に増光しているのを発見しました。この発見のわずか8時間前の27.521日には、この天体はまだ15.2等と暗かったことが、オーストラリアのRod Stubbingsさんによって観測されており、ごく短時間のうちに数千倍も明るくなったことがわかります。
8月27.98日にはこの天体の分光観測が行われ、幅の広いP Cygniプロファイルを持つ水素のバルマー系列やヘリウムなどの輝線が見られることがわかり、この天体が新星爆発を起こしたことで明るくなったことが確認されました。
1962年や1990年の増光時には、この天体は増光後は急速に暗くなり、1か月ほどで15等まで減光する様子が観測されました。今回も同様の明るさの変化を示すものと考えられます。今後の様々な機器による観測結果が楽しみな天体と言えるでしょう。なお、この天体の位置は
赤経 18h30m43.28s 赤緯 -24°01′08.9″(2000年分点)
で、球状星団M22の西およそ1.3度の位置です。
〈参照〉
- VSOLJ:No. 357 反復新星のいて座V3890が29年ぶりに新星爆発
- ATel:#13047: SOAR spectroscopic confirmation of a new eruption of the recurrent nova V3890 Sgr
〈関連リンク〉
- 新星の画像(清田さん)
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:新星・超新星・突発天体/重星・変光星
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