いよいよ近づいてきた、かんむり座Tの80年ぶりの新星爆発

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今年2月から9月の間で起こるとみられている「かんむり座T」の新星爆発について、その兆候が顕著になってきた。

【2024年3月26日 高橋進さん】

新星とは、近接連星系で伴星(主系列星または赤色星)から白色矮星にガスが流入し、白色矮星の表面に降り積もった水素ガスが臨界量に達して核融合爆発を起こす現象です。新星爆発は何度も繰り返されますが、通常は数千年から数万年といった間隔で起こると思われます。ただ、白色矮星の質量が大きく、また伴星からのガスの流入量が多い場合は、数十年の間隔で爆発するものもあります。こうした天体は「再帰新星」や「反復新星」などと呼ばれます。その再帰新星の一つである「かんむり座T」が、まもなく新星爆発を起こしそうだと話題になっています。

主な再帰新星
主な再帰新星(作成:高橋さん)

かんむり座T(T CrB)はこれまでに1866年5月と1946年2月の2回、爆発が観測されており、1866年の時は2.0等まで明るくなりました。1946年は3.0等と記録が残っていますが、実際にはその数日前におよそ2等で輝いたと思われています。この2回の観測から、かんむり座Tは約80年周期で爆発する再帰新星とみられていて、次回の爆発は2026年ごろと思われていました。

かんむり座Tの平常光度はおよそ10等で、小型の天体望遠鏡でも観測できる明るさです。そのため普段から多くの観測者によって観測されていますが、2015年くらいから光度が0.5等くらい明るくなり、色も少し青くなりました。この現象は1946年の爆発の8年前の1938年にも見られていたことから、いよいよ今回の爆発の時が近づいていることを予感させるものでした。

その後の明るさは約110日の周期で9.5等から10.2等くらいの間の振幅を繰り返しながら推移していましたが、2023年2月ごろから徐々に光度を落としていきました。この減光傾向はV等級よりB等級で顕著で、それまでより多少赤くなってきていることもわかりました。この現象も前回は1945年1月ごろに見られていて、およそ400日後に新星爆発が起こったのでした。今回は2023年2月ごろから減光傾向が見られたことから、誤差も含めて今年2月から9月の間で新星爆発が起こるとの予測が出されました(参照:「爆発が近づいてきた再帰新星かんむり座T」)。

かんむり座Tの光度(2022~2024年)
かんむり座Tの光度(2022~2024年)(VSOLJのデータベースから高橋さん作成)

かんむり座Tの平均光度は、減光傾向が始まった昨年2月ごろはV等級でおよそ9.9等でしたが、今年3月現在では10.4等ほどになっています。B等級では減光がさらに顕著で、11.0等から11.8等くらいにまで暗くなっています。この変化は1945年から1946年にかけての変化とまさに同様で、1946年の爆発でもB等級でおよそ11.8等くらいまで下がった後に爆発が起こっています。

1946年2月の際は爆発時の記録がよく取れていませんが、その前後の観測によると、爆発直前は10.4等くらいだったのが、爆発から1日後には6等に、2日後には3等になっています。つまり、増光スピードは1日で3.4等ほどと思われます。そして極大等級を過ぎるとすぐに減光が始まり、1日に約0.5等のスピードで減光していくと思われます。これは新星のなかでも減光がかなり速いものと言えます。そのため、かんむり座Tは増光の情報があれば大至急で観測しないと見逃してしまう可能性が大きい星と言えます。とくに2等級で輝く極大期は1~2日程度しかないと思われますので、普段から待ち受けていないといけません。

かんむり座Tの光度(1946年)
かんむり座Tの光度(1946年)(高橋さん作成。点はVSOLJデータベースによるもの、曲線はAAVSO等のデータより)

あくまで筆者の予想ですが、すでにかなり暗くなっており、爆発は近い時期に起こるのではと感じています。もうあまり余裕はないかもしれません。再帰新星はいくつか知られていますが、2等にまで明るくなるのはかんむり座Tしかありません。80年に一度のこの現象を、どうぞ見逃すことなくご覧ください。

かんむり座の位置
かんむり座の位置。うしかい座の1等星アルクトゥールスとこと座の1等星ベガを目印にするとわかりやすい。季節や時刻によって見える方角と高さは変化するが、6月ごろまでは宵に南東から南の空に見え、7月以降は宵に南から南西、9月下旬でも20時ごろに西の空に見える(「ステラナビゲータ」で星図作成)

かんむり座T周辺の星図
かんむり座T周辺の星図。数字は恒星の等級(42=4.2等)を表す(ステラナビゲータで星図作成、比較星光度はAAVSOによる)

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