星間分子雲を模した実験で核酸塩基を初めて生成
【2019年10月7日 北海道大学】
恒星は星間分子雲と呼ばれるガス雲から誕生する。星間分子雲は水素分子が主な成分で、他にも一酸化炭素など様々な種類の分子が含まれている。また、星間塵と呼ばれる氷や有機物の微粒子も大量に存在している。
星間分子雲の温度は約10ケルビン(摂氏マイナス263度)ときわめて低温だが、分子雲の中では新たに生まれた星から放射される紫外線や宇宙線をエネルギー源として様々な化学反応が起こっていると考えられ、実際にアミノ酸など、生命の材料となる複雑な有機分子が星間分子雲の電波観測から見つかっている。
また、地球に落下する隕石のうち、炭素質隕石と呼ばれるものにも有機物が多く含まれている。炭素質隕石からはアミノ酸や炭化水素などの有機分子だけでなく、核酸塩基も見つかっている。核酸塩基はリン酸とともに糖に結合することでヌクレオチドという分子を形作る。ヌクレオチドのリン酸部分が互いに鎖状にたくさん結びついたものが、DNA、RNAなどの核酸だ。DNAはアデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)・チミン(T)(RNAではチミンの代わりにウラシル(U))という4種類の核酸塩基を含むヌクレオチドからできていて、DNA・RNAの中での4種類のヌクレオチドの並び方(塩基配列)が生物の遺伝情報を担っている。
炭素質隕石から核酸塩基が検出されるということは、地球上の生命誕生に関わったDNAやRNAの材料が、実は宇宙で作られたものかもしれないという可能性を意味する。そのため、宇宙環境でこうした生体関連分子がどのように、またどのくらい作られるのかという問題に取り組む研究が近年盛んに行われている。
これまでの実験では、糖とリン酸については星間分子雲と同様の環境で作られることが確認されていたが、核酸塩基ができるかどうかはわかっていなかった。そこで、北海道大学の大場康弘さん、海洋研究開発機構の高野淑識さん、九州大学の奈良岡浩さんたちの研究グループは、星間分子雲と同様の超高真空・極低温の環境を実験装置内に再現し、分子雲に含まれるガスや塵の成分である水・メタノール・一酸化炭素・アンモニアからなる氷の薄膜に紫外線を照射して、どのような分子が生成されるかを調べた。
その結果、DNAやRNAを構成する7種類の核酸塩基のうち、グアニンを除く6種類(シトシン・ウラシル・チミン・アデニン・ヒポキサンチン・キサンチン)がこの実験の生成物から検出された。
ただし、核酸塩基は人間の生活環境にたくさん存在しているため、実験で検出された核酸塩基が環境からの混入物でないことを示す必要がある。そこで大場さんたちは、実験材料のメタノールとアンモニアについて、メタノールの水素とアンモニアの窒素をそれぞれ重水素と窒素15という同位体原子に置き換えた標識分子を用意して同じ実験を行った。その結果、反応の生成物である核酸塩基の分子の中に重水素や窒素15が含まれることが確認され、これらの核酸塩基が確かに極低温の光化学反応で生成されたことが実証された。
また、この実験では核酸塩基だけでなく、たんぱく質の材料となるアミノ酸も生成された。実験で作られた核酸塩基とアミノ酸の比率を調べたところ、過去に炭素質隕石から見つかった核酸塩基とアミノ酸の比率によく一致していた。大場さんたちは、炭素質隕石に含まれている核酸塩基やアミノ酸がもともと星間分子雲で作られた可能性を示唆する成果だと考えている。
誕生直後の太陽系では、炭素質隕石が原始地球に降り注いだことで、隕石に含まれていた有機物が地球上の有機化合物のかなりの量をまかない、それらがやがて最初の生命の材料となった、という仮説がある。研究チームでは、今後さらに研究が進展することで、宇宙で作られた分子が地球の生命の起源にどのくらい寄与したのか、またどのような過程で隕石由来の有機物が生命誕生につながったのかという人類の根源的な疑問を解くことにつながると期待しているという。
〈参照〉
- 北海道大学:星間分子雲における核酸塩基生成に世界で初めて成功~宇宙の極限環境で核酸の構成成分が光化学反応により生成~
- Nature Communications:Nucleobase synthesis in interstellar ices 論文
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