小惑星リュウグウに核酸塩基とビタミンが存在、過去には水による変性も

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小惑星探査機「はやぶさ2」が回収したリュウグウの試料から、核酸塩基の一種ウラシルやビタミンB3が検出された。また、小惑星の形成過程で活発な地質活動と衝突の繰り返しがあったこともわかった。

【2023年3月29日 海洋研究開発機構分子科学研究所

核酸塩基の「ウラシル」や「ビタミンB3」などを検出

2020年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料からは、これまでにアミノ酸やカルボン酸など様々な有機化合物が見つかっている。北海道大学低温科学研究所の大場康弘さんたちの研究チームは、有機物の中でも、窒素原子を含む環状構造を持つ「窒素複素環化合物」にターゲットを絞り、独自に開発した手法で約10mgのリュウグウ試料を分析した。

地球の生命の遺伝情報を担うDNAやRNAも、窒素複素環化合物の一種である核酸塩基で構成されている。その中で、RNAに含まれる核酸塩基の一つであるウラシルが試料から検出された。また同じ試料から、生命の代謝に不可欠な補酵素の一つであるビタミンB3(ナイアシンまたはニコチン酸)も見つかっている。

サンプルを採取する「はやぶさ2」のイメージイラスト
「はやぶさ2」がリュウグウでウラシルとビタミンを含むサンプルを採取するイメージイラスト(提供:NASA Goddard/JAXA/Dan Gallagher)

リュウグウの試料に含まれるウラシルの濃度は、1gあたり最大で32ng(ナノグラム、1ng=10億分の1g)で、ビタミンB3の濃度は1gあたり最大で99ngだった。試料にはリュウグウの最表層と地表下の2か所で採取されたものが含まれており、地表下の方がウラシルとビタミンB3の濃度が高かった。リュウグウの表面では、宇宙線や真空紫外光による分解が起こっていることを示唆する結果だ。

核酸塩基はすでに隕石からも見つかっているが、今回の結果からは小惑星における有機分子の分布がわかり、その要因も議論できる。これは隕石の分析ではなし得ないことだ。

リュウグウの表層および地下環境の物理化学因子モデル
リュウグウの表層および地下環境の物理化学因子モデルの概要(提供:海洋研究開発機構リリース)

ウラシルやビタミンB3の他には、ピリミジンやオキサゾールなど、1分子当たりの炭素の数が30にも及ぶ種々の窒素複素環化合物が検出された。これら分子の生成には、リュウグウとその母天体における熱的な反応などの化学プロセスが関わったと考えられる。一方、太陽系形成前に生成されたと推測される物質もあり、リュウグウが多様な起源をもつ物質から形成されたという先行研究と一致する結果となった。

リュウグウの親天体の過去

国立極地研究所の山口亮さんたちの研究チームは、リュウグウから採取された粒子の組織や組成を詳細に調べた。

研究チームが注目した4つの粒子には、地球でもよく見られる粘土鉱物や炭酸塩鉱物が多く含まれていた。これは、鉱物の形成に水が大きく関与していたことを意味する。分析によれば、太陽系誕生からおよそ200万年以内という短い期間に、リュウグウの母天体では摂氏0~150度の環境で水による地質活動(水質変性)が進んでいた。さらに、天体衝突による破砕と混合も受けていたことも明らかになった。

リュウグウの形成過程
リュウグウの形成過程(提供:分子科学研究所、以下同)

また、リュウグウ粒子の粘土鉱物の一部にナトリウムが非常に多く含まれる部分が見つかった。電子顕微鏡や大型放射光施設「SPring-8」を用いたコンピューター断層撮影などによる詳細な分析の結果、それが水酸化ナトリウム(NaOH)である可能性が高いことが示された。水酸化ナトリウムは、C型小惑星で水質変成を起こした水に含まれる成分の一つと予想されているが、 これまでに隕石で見つかったことはない。

リュウグウの試料は、隕石の研究だけでは見つからない、C型小惑星の形成過程を読み解くための貴重な情報をたくさん持っている。今後さらにその研究が進むことで、太陽系誕生当時に数多く存在したとされるC型小惑星の形成史の詳細が明らかになると期待される。

リュウグウ粒子A0037の研磨片の走査電子顕微鏡像
(上)今回分析された4つの粒子の1つであるリュウグウ粒子A0037の研磨片の走査電子顕微鏡像、(下)化学組成像。赤:粘土鉱物(含水層状ケイ酸塩鉱物)、緑:炭酸塩鉱物、青:磁鉄鉱、黄:硫化鉱物(提供:分子科学研究所リリース)

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