リュウグウ試料から生命の材料分子を80種以上発見
【2024年7月18日 海洋研究開発機構】
リュウグウは小惑星帯に多く存在する炭素質のC型小惑星で、地球誕生以前の太陽系の化学組成を保っている始原的な天体だ。探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰ったリュウグウ試料の分析では、試料が炭素や窒素に富み、水の影響がみられるものなど多様な有機物を多く含むことがわかっている。しかし、水に溶ける有機物や水が存在する条件で生成や分解が進むタイプの有機物については、どんなものがどれだけ含まれているかがまだ不明だった。
海洋研究開発機構の高野淑識さんたちの研究チームは、リュウグウ試料から溶媒に溶ける成分を抽出し、分子レベルで高精度な解析を行った。
その結果、水分子と結合しやすい親水性の有機酸(シュウ酸、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、乳酸、メバロン酸など65種)と、窒素を含む分子(アルキル尿素などを19種)が新たに多数検出された。
今回見つかった分子の中には、非生命的な物質進化の源流ともいえるアミノ酸や核酸塩基、さらに生命がエネルギーを生み出す「代謝」反応の材料となる始原的な物質が含まれている。
たとえば、リンゴ酸は核酸塩基の材料となり、今回検出された尿素と反応することで核酸塩基の一種であるウラシルになる。またピルビン酸はアミノ酸の材料であり、細胞の中で起こっている「クエン酸回路」などの多くの代謝経路の出発物質でもある。クエン酸も、生命のエネルギー代謝の中心的役割を果たす機能性分子だ。さらに、メバロン酸は細胞や細胞内器官の様々な膜構造の材料になる。
今回の分析で、生命の原材料であるアミノ酸や核酸塩基の元となる物質がリュウグウには確実に存在し、生命誕生以前の化学進化の記録として残されている明確な証拠が得られた。
また、今回見つかったジカルボン酸の一つであるマロン酸は、水分子が存在する環境の下で分子構造が変化したり元に戻ったりする「互変異性」という性質を持っている。そのため、マロン酸の量を測定すると、試料が水分子に富む環境にあったかどうかが推定できる。このマロン酸の分析から、リュウグウにかつて水が豊富に存在した強い証拠が得られた。
さらに高野さんたちは、リュウグウが着陸した2か所の試料それぞれについて、軽元素(炭素・窒素・水素・酸素・硫黄)の存在量や安定同位体の組成、可溶性有機物の性質などを調べ、水と有機物と鉱物の相互作用でどんな化学進化が起こっていたのかという「現場検証」の結果をまとめた。こうして得られた基礎データは、NASAの探査機「オシリス・レックス」が地球へ持ち帰った小惑星「ベンヌ」の試料と比較研究する上でも重要な役割を果たすだろう。
今回の成果は、太陽系で最も早い時期に軽元素や有機分子がどのように存在・進化したのかというヒントを与えてくれる。また、原初の地球で起こった非生命的なプロセスの源流となる分子の進化過程を明らかにする上でも重要な一次情報となる。
〈参照〉
- 海洋研究開発機構:小惑星リュウグウの水に満ちた化学進化の源流と水質変成の証拠 ― アミノ酸や核酸塩基にいたる原材料を発見
- Nature Communications:Primordial aqueous alteration recorded in water-soluble organic molecules from the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu 論文
〈関連リンク〉
- 「はやぶさ2」:
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
- OSIRIS-REx:
- 海洋研究開発機構(JAMSTEC)
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:リュウグウ
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