リュウグウの試料中に、初期太陽系の磁場を記録できる新組織を発見

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小惑星リュウグウの試料から、鉄ナノ粒子が付随する擬似マグネタイトという新組織が見つかった。初期太陽系の磁気を記録することが可能な組織で、太陽系形成の研究に有用なものと期待される。

【2024年5月9日 北海道大学

太陽系小天体の表面は、太陽風や宇宙塵の衝突による影響で色や明るさが変化する。この現象は宇宙風化と呼ばれ、その痕跡を調べることにより天体表面の年代に関する情報などが得られる。探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料にも、宇宙風化作用の痕跡が見つかっている。

宇宙風化の研究で重要な鉱物の一つがマグネタイト(磁鉄鉱)だ。マグネタイトは磁気記録媒体としてハードディスクなどに使われている物質であり、初期太陽系に関する研究では星雲磁場の重要な記録媒体として知られている。

北海道大学の木村勇気さんたちの研究チームは、リュウグウ試料の初期分析から、マグネタイトがリュウグウ試料の主要な磁気記録媒体であることを突き止め、試料の示す残留磁場が、リュウグウの母天体内部でマグネタイトが形成された時期や場所における磁場の強さに対応していることを明らかにした。マグネタイト粒子の内部に発見された渦状の磁区構造は非常に安定しており、46億年以上にわたって磁場を記録し続けることが可能だ。いわば、初期太陽系の環境情報を記録した天然のハードディスクのようなものである。

マグネタイト粒子とその磁束分布
リュウグウ試料から切り出したマグネタイト(丸い粒子)粒子とその磁束分布の電子顕微鏡画像。(A)透過電子顕微鏡像。(B)電子線ホログラフィー(透過電子顕微鏡)により得られた磁束分布像。粒子の内部に見られる同心円状の縞は磁力線に相当する(提供:プレスリリース、以下同)

木村さんたちが同じリュウグウ試料の異なる領域の切片を観察したところ、マグネタイト粒子で見つかったものと同じような球形の粒子を含む木苺状の組織が発見された。しかし、この粒子の磁場は渦状構造ではなく、のっぺりとした均質のコントラストを示している。粒子はマグネタイトを特徴づける磁石としての性質を失っていて、マグネタイトとそれが還元することで形成されるウスタイトの両方の特徴を持つ。研究チームでは今回見つかった非磁性の粒子を「擬似マグネタイト(pseudo-magnetite)」と名付けている。

擬似マグネタイトとその内部
擬似マグネタイト(丸い粒子)。(A)透過電子顕微鏡像。(B)大きな四角で示した領域の磁束分布像。縞模様は見られず、磁区構造がないことがわかる

さらに、擬似マグネタイトの周囲には鉄のナノ粒子が多数見られ、その磁場はマグネタイトと同様の渦状磁区構造を示すことが明らかになった。こうした鉄ナノ粒子も、長期間にわたって粒子形成時の磁場情報を保持できることを示す結果だ。擬似マグネタイトと鉄ナノ粒子は宇宙塵の衝突による加熱で形成されたとみられている。また、数値計算により、今回新発見された組織は水質変質終了後の時代における太陽系の磁場情報を記録したものであると結論付ける結果も得られている。

鉄ナノ粒子とその内部
擬似マグネタイトの周囲に分布する鉄ナノ粒子。(A)擬似マグネタイト画像の左上部分(白黒反転)。(B)対応する鉄の分布像。矢印は鉄ナノ粒子を示す。(C)AとBの中央領域(擬似マグネタイト画像A内の小さな四角領域)の磁束分布像。擬似マグネタイトには磁力線が見られない一方で、鉄粒子の内部には同心円状の渦状磁区構造が見られる

研究成果のイメージイラスト
今回の研究成果のイメージイラスト

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