リュウグウの炭酸塩に、母天体が独特な環境で進化した形跡
【2023年7月19日 茨城大学】
探査機「はやぶさ2」が地球へ持ち帰った小惑星リュウグウの試料は、様々な方法で分析が進められている。リュウグウは、より大きな母天体が衝突で破壊されたときの破片から生まれたと考えられているが、その母天体に水が存在した証拠は既にある。試料からは水そのものや、水による変質作用を受けた岩石や有機物が見つかっているのだ。
だが、リュウグウが現在の姿になるまでの過程を理解するには、単に水があったかどうかだけではなく、その水による変質作用が起こった環境(温度や水に溶け込んだ物質など)を知る必要がある。
茨城大学の藤谷渉さんたちの研究チームは、リュウグウの試料およびリュウグウと似た特徴を示す「イブナ型炭素質隕石」と呼ばれる隕石のグループを分析し、それぞれに含まれる2種類の炭酸塩鉱物、方解石(CaCO3)と苦灰石(CaMg(CO3)2)について、炭素と酸素の同位体比を測定した。炭酸塩鉱物は水と岩石の反応で作られたと考えられる物質で、変質作用が起こった環境に関する情報を保持している。
酸素の同位体比は、粒子が形成されたときの温度や、岩石との反応による水の酸素同位体比の変化を反映している。一方、炭素の同位体比は温度に加え、水中の酸素濃度によって変動したと考えられる。酸素と連動して二酸化炭素・一酸化炭素・メタンといった炭素を含む気体の存在量も変化し、それが炭酸塩鉱物に取り込まれる炭素の同位体比にも影響を与えるからだ。
同位体比の測定には、物体の表面にイオンのビームを照射して飛び出した粒子を分析する「二次イオン質量分析計」を用いた。ただ、リュウグウの試料は粒が細かく、とくに方解石の粒子は10μm以下しかない。藤谷さんたちは、1μmまで小さく絞ったビームを照射して分析する技術を独自に開発し、方解石・苦灰石の分析を網羅的に行うことに初めて成功した。
分析の結果、方解石では粒子によって炭素・酸素どちらの同位体比も大きなばらつきがある一方、苦灰石ではどの粒子も同程度であることが示された。このことから、方解石の形成中は水の温度や酸素濃度が変化していて、苦灰石の形成中は安定していたことが読み取れる。先に形成されたのは方解石で、温度と酸素濃度は上昇中で、二酸化炭素・一酸化炭素・メタンも増えていた。一方、それらが平衡状態に達したときに作られたのが苦灰石だったと考えられる。
以上の考察は、リュウグウやイブナ型炭素質隕石の母天体が形成されたときに、二酸化炭素・一酸化炭素・メタンなどガスになりやすい成分が固体(氷)として取り込まれていたことを示唆している。これまでの研究からは、リュウグウの母天体が太陽系の外縁部で生まれた証拠が見つかっている。今回のような炭酸塩鉱物の同位体組成は、他の隕石では報告された例がなく、リュウグウやイブナ型炭素質隕石の母天体が独特の環境で進化した証拠と言えそうだ。
〈参照〉
- 茨城大学:リュウグウの炭酸塩から酸素濃度・ガス分子種の変遷を解読 - 炭素・酸素同位体比に基づく天体進化モデルを構築 形成・変質過程の手がかりに
- Nature Geoscience:Carbonate record of temporal change in oxygen fugacity and gaseous species in asteroid Ryugu 論文
〈関連リンク〉
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