リュウグウの砂つぶに水の変遷史を示す塩の結晶を発見

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小惑星リュウグウのサンプルから、微小な塩の結晶が見つかった。同じく塩類が見つかっている土星の衛星エンケラドスなどの地下海を持つ太陽系天体とリュウグウとの比較研究につながる成果だ。

【2024年11月27日 京都大学

小惑星に記録されている水の変遷史は、小惑星上における生命居住の可能性に関わる重要な情報となる。探査機「はやぶさ2」がサンプルを持ち帰った小惑星リュウグウの母天体では、液体の水と鉱物が相互作用して水性変質が起こったことがわかっている。しかし、液体の水が失われた過程は、その化学的な環境とともに不明なままとなっていた。

京都大学の松本徹さんたちの研究チームは、リュウグウのサンプルにナトリウム炭酸塩などの微小な塩の結晶を発見し、リュウグウの母天体で起こっていた水質変質の最終段階で、液体の水が蒸発または凍結して塩が形成された可能性を示した。

見つかったナトリウム炭酸塩は、地球に飛来する隕石では見つかっていない。水に溶けやすかったり吸湿しやすかったりする物質などは、隕石が地球に落下する際に湿気を含んだ地球大気下で変化してしまうからだ。そこで松本さんたちは、リュウグウの砂を大気に全く触れない状態に注意深く保ち、その表面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察した。すると、砂の表面に小さな白い鉱脈が発達している様子が見つかった。

リュウグウの砂表面のナトリウム炭酸塩脈
(左)ナトリウム炭酸塩脈(矢印)が見られるリュウグウの砂の光学顕微鏡写真、(右)ナトリウム炭酸塩脈の(青色)擬似カラー電子顕微鏡画像(提供:プレスリリース、以下同)

この鉱脈を形作っている鉱物を透過型電子顕微鏡を使って観察したところ、成分がナトリウム炭酸塩(Na2CO3)、岩塩(NaCl:塩化ナトリウム)の結晶、ナトリウム硫酸塩(Na2SO4)であることがわかった。

ナトリウム炭酸塩脈の断面
ナトリウム炭酸塩脈の断面(透過型電子顕微鏡画像に擬似着色したもの)。粘土(三角印:茶色の部分)の表面にナトリウム炭酸塩(星印:青色の部分)が分布している。100nmほどの大きさの塩化ナトリウム(六角形印:マゼンタの部分)も含まれる

今回見つかった結晶は、いずれも水に非常に溶けやすい性質をもつ塩の結晶で、液体が極めて少なく塩分濃度が高くなければ結晶が析出できなかったと予想される。このことから、リュウグウの砂を構成する多くの鉱物は、母天体で沈殿した後に液体の水が失われる現象が起こって沈殿したと考えられる。

現在のリュウグウは800m程の大きさだが、約45億年前に存在した母天体の大きさは数十kmだったと推定されている。その内部は放射性元素の崩壊熱によって温められ、お湯で満たされていたのだろう。リュウグウの砂から溶媒抽出した成分がナトリウムや塩素などに富むことから、液体は塩水と考えられる(参照:「リュウグウの炭酸塩は太陽系誕生の180万年後にできた」「リュウグウ粒子から炭酸・塩が溶け込んだ水を発見」)。

この液体が失われた原因としては、2つの可能性が考えられる。一つは塩水の蒸発だ。母天体内部から表層の宇宙空間へつながる割れ目ができると、天体内部の液体が減圧されて蒸発すると考えられる。地球上では大陸内部に取り残された湖が干上がった時に、高い濃度の塩水が生じてナトリウム炭酸塩や岩塩などが析出する「蒸発岩」が知られているが、リュウグウ母天体でも同じことが起こったのかもしれない。

もう一つの可能性は液体の凍結だ。母天体を温めていた放射性元素が乏しくなると天体は冷え、塩水は徐々に凍結すると考えられる。塩水に溶けた陽イオンや陰イオンは氷には取り込まれにくく、凍結が進んで塩水の濃度が高くなると、塩の結晶が析出する。凍結した氷はその後、現在に至るまでに宇宙空間へ昇華してしまったとみられる。

リュウグウの母天体での塩結晶の形成
リュウグウの母天体における塩水の蒸発や凍結による塩結晶の形成

準惑星ケレスには、内部海の水が凍ってナトリウム炭酸塩が主な成分となって噴出する氷火山がある。また、土星の衛星エンケラドスでは、表面の割れ目からナトリウム炭酸塩や塩化ナトリウムなどを含む海水が間欠泉のように噴出している。これらの塩類は天体の水の成分や進化を反映しており、リュウグウの塩の結晶は、太陽系の海洋天体とリュウグウの水環境を比較できる手がかりになると期待される。

「見つかった塩鉱物は、電子顕微鏡で観察中に時間をかけると消えてなくなります。分析は困難を伴いましたが、太陽系の水の進化に関わる意義のある研究ができました。今回の発見は、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから直接サンプルを持ち帰ったことで初めて可能となりました」(松本さん)。

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