リュウグウの炭酸塩は太陽系誕生の180万年後にできた

このエントリーをはてなブックマークに追加
小惑星リュウグウの試料の分析から、リュウグウの母天体は太陽系誕生のわずか約180万年後までには形成されていたという結果が発表された。

【2023年1月25日 カリフォルニア大学ロサンゼルス校ローレンスリバモア国立研究所

「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料は、初期分析を担当する6チームが現在分析を進めており、国際公募による研究も始まっている。また、試料の特徴をより深く調べて記録する「フェーズ2キュレーション」も行われている。今回、フェーズ2キュレーションを担当する2チームの一つ、海洋研究開発機構(JAMSTEC)高知コア研究所を中心とする「高知チーム」から、リュウグウ試料の新たな分析結果が発表された。

同チームでは、リュウグウ試料の粒子2個を使い、そこに含まれる炭酸塩の同位体分析を行って、リュウグウの母天体ができた年代や母天体の性質を推定した。

リュウグウ粒子「A0037」
今回分析されたリュウグウの粒子の一つ「A0037」の光学顕微鏡画像。この粒子は他のリュウグウ試料やCIコンドライトに比べて炭酸塩鉱物が非常に多く(体積で約21%)含まれている。黄色の線で囲まれた部分に大きな炭酸塩の塊があり、その中に磁鉄鉱の小さな結晶(白い点状の物質)が閉じ込められている(提供:Photo courtesy of A. Yamaguchi/NIPR, Japan.)

これまでの初期分析などで、リュウグウの試料からは炭酸塩鉱物が多く見つかっている。炭酸塩は液体の水が存在する環境で、水と岩石の反応(水質変成)でできる鉱物だ。この炭酸塩の中には微量のマンガンが含まれている場合があり、放射性同位元素であるマンガン53が半減期370万年でクロム53へと崩壊する現象を利用して、この炭酸塩鉱物が作られた年代を測定することができる(参照:「隕石から判明した小惑星の形成時期と水の存在」)。

そこで研究チームでは、リュウグウ試料の炭酸塩や磁鉄鉱を使ってマンガン‐クロム系年代測定を行い、炭素や酸素の同位体分析も行った。

その結果、リュウグウ試料の炭酸塩を形づくった水質変成作用は、約45億6800万年前と推定されている太陽系の誕生から約180万年後までの間に起こったと推定されることがわかった。これは、太陽系で最初に炭酸塩ができた年代として過去に隕石の分析から推定されていた値よりも数百万年早い。

こうした水質変成鉱物を作った水は、もともとは原始太陽系星雲の中に存在していた水の氷が集積してリュウグウの母天体となり、後に母天体内部の氷がアルミニウム26などの放射性元素の崩壊熱で溶け、液体の水になったものだと考えられる。研究チームでは、炭酸塩ができた時期がかなり早いことから、リュウグウの母天体は直径20km以下の比較的小さい天体だったのではないかと考えている。

「リュウグウ試料から、リュウグウやリュウグウに似たタイプの天体は、水や二酸化炭素の雪線(水や二酸化炭素が氷として存在できる最も内側の境界)よりも遠い太陽系外縁部で、比較的急速に、おそらく小さな天体として形成されたことがわかります」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Kevin McKeeganさん)。

これは驚くべき結果だ。ほとんどの小惑星の集積モデルでは、小惑星(の母天体)はもっと長い時間をかけて、少なくとも直径50kmくらいの天体として形成されたと考えられてきたからだ。

リュウグウの場合、母天体が直径50kmもあったとは考えにくい。もし母天体がそれほど大きければ、内部の放射性元素から大量の熱が出て氷だけでなく岩石も融け、金属の核とケイ酸塩のマントルに分化したはずだからだ。実際にはリュウグウの母天体が分化していた痕跡は見つかっておらず、研究チームの炭素・酸素同位体分析によると、母天体の水は摂氏0~20℃の状態で水質変成が始まったと推定されている。

研究チームでは、今後もリュウグウ試料の研究によって、太陽系の惑星や地球がどうやってできたのかを解く手がかりが続々と見つかるだろうと期待している。

〈参照〉

〈関連リンク〉

関連記事