リュウグウ粒子から炭酸・塩が溶け込んだ水を発見
【2022年9月27日 JAXA】
2020年12月に「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星リュウグウの粒子は、JAXA内の「初期分析チーム」6チームと、外部機関で高度な分析と記録を行う「フェーズ2(第2段階)キュレーション」2チームによって詳しい分析が続けられている。
今回、初期分析チームのうち、東北大学の中村智樹さんを中心とする「石の物質分析チーム」の分析結果が新たに公表された。
石の物質分析チームでは、直径1~8mmのリュウグウ粒子17個について、放射光を用いたX線CT画像の撮影や、電子顕微鏡による鉱物の分析、二次イオン質量分析計などを使った化学分析を行った。
その結果、試料に含まれていた硫化鉄の結晶に空いた直径数μmの穴に液体の水が閉じ込められているのを発見した。これまでにリュウグウでは、「はやぶさ2」のリモートセンシング観測や試料の赤外線スペクトルから水(-OH基)の存在が明らかになっていた。また、試料から様々な含水鉱物(=結晶構造の中にH2O分子が取り込まれている鉱物)も見つかっている。しかし、顕微鏡で観察できるスケールで液体の水が見つかったのはこれが初めてだ。
今回見つかった水を質量分析計で調べたところ、二酸化炭素や塩化物、有機物が溶け込んでいることもわかった。いわば「しょっぱい炭酸水」のような組成だ。このことから、リュウグウの母天体は原始太陽系の中で二酸化炭素が固体(ドライアイス)でいられる「雪線」よりも外側の領域で、岩石粒子と水の氷、ドライアイスなどが集積してできたと研究チームでは推定している。二酸化炭素の雪線の位置は、現在の太陽系ではおよそ10au(土星軌道あたり)になる。今回の発見は、リュウグウが太陽系の比較的外側で誕生し、その後に内側まで移動してきたことを示す直接の証拠といえる。
また、試料の粒子の表面で、薄い平板状の結晶が積み重なるようにして成長した「テーブルサンゴ」のような形の結晶も見つかった。これは液体の水の中で結晶が成長した証拠と考えられ、リュウグウの母天体にかなりの量の液体の水があったことを示唆する。
その一方で、原始太陽のすぐそばの高温環境で作られる微粒子もリュウグウ試料から初めて見つかった。カルシウムやアルミニウムを多く含む「CAI」という物質や、塵が1000~1500℃以上に加熱されて融けた「コンドリュール」などだ。この発見は、誕生直後の太陽系で内側と外側の物質が大規模に混ざり合うような動きがあったことを示すものだ。
さらに、液体の水がある環境で作られる「磁鉄鉱」の粒子に、原始太陽系星雲の電離ガスが生み出した磁場の痕跡が残されていることもわかった。リュウグウの母天体が誕生して内部に液体の水ができた時代に、母天体の周辺にはまだ原始太陽系星雲のガスがたくさん残っていたことを示す証拠となる。
これらの発見や試料粒子の物性を測定した結果をもとに、中村さんたちはリュウグウ母天体の形成と進化のシミュレーションを行った。それによると、リュウグウの母天体は太陽系誕生から約200万年後に、太陽系外縁部の-200℃ほどの極低温環境で生まれ、直径は約100kmだった。300万~500万年後にアルミニウム26という放射性元素の崩壊熱で内部は50℃ほどまで加熱され、氷が融けて水質変成が起こった。その後の時代に直径10kmほどの天体が衝突して母天体は破壊され、直径50kmほどの大きな塊と、無数の小さな破片に分かれた。現在のリュウグウはこの小さな破片が集積して形成され、大きな塊はリュウグウと同じ小惑星族で最大級の天体である (142) ポラーナ、または (495) エウラリアになったと考えられるという。
中村さんは、「高温微粒子が原始太陽系の内側から外側へ移動したこと、リュウグウが太陽系の外縁部でできたこと、母天体の誕生時に星雲ガスが残っていたことなどを確かな物的証拠から初めて言えるようになったことは非常に大きい成果だ」と語っている。
〈参照〉
- JAXA:小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析 石の物質分析チーム 研究成果の科学誌「Science」論文掲載について
- 東北大学:炭素質小惑星リュウグウの形成と進化:リターンサンプルから得た証拠
- Science:Formation and evolution of carbonaceous asteroid Ryugu: Direct evidence from returned samples 論文
〈関連リンク〉
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