リュウグウ試料からDNA・RNAを構成する全5種の核酸塩基を検出
【2026年3月27日 海洋研究開発機構】
DNAやRNAを構成する基本分子の核酸塩基は、遺伝情報の保存や伝達を担う生命に不可欠な物質だ。広く受け入れられている「RNAワールド仮説」では、40億年前の生命誕生期にあった地球で、RNAが遺伝の働きや生命中の化学反応を触媒する役割を担っていたとされている。そのため、RNAを構成する核酸塩基の生成環境や、初期地球への供給の仕組みを理解することは、生命起源研究の重要な課題と言える。
これまでに、炭素質隕石であるマーチソン隕石や、NASAの探査機「オシリス・レックス」が地球に届けた小惑星「ベンヌ」の試料から、遺伝子に含まれる5種の核酸塩基(シトシン、ウラシル、チミン、アデニン、グアニン)全ての核酸塩基が検出されている(参照:生物の遺伝情報を担う主要核酸塩基を全て隕石から発見/小惑星ベンヌの試料からアミノ酸など多くの生体関連分子を検出。
また、日本の探査機「はやぶさ2」が採取して地球に持ち帰った小惑星「リュウグウ」試料の初期分析でも、ウラシルが検出されている。この分析をさらに進め、リュウグウ試料に含まれる核酸塩基を網羅的に調べることは、ベンヌとの比較や、小惑星における核酸塩基の生成機構、母天体内部の化学進化を理解するうえで非常に重要だ。
海洋研究開発機構の古賀俊貴さんたちの研究チームは、リュウグウ試料から可溶性有機物を水と塩酸により段階的に抽出し、液体クロマトグラフィーによる物質分離と高分解能質量分析計による質量測定を組み合わせた高分解能質量分析(HPLC/HRMS)を実施した。

分析されたリュウグウ試料。試料ID A0480とC0370の顕微鏡写真(提供:海洋研究開発機構リリース)
その結果、試料の抽出液から、マーチソン隕石やベンヌ試料と同様に、遺伝子に含まれる5種の核酸塩基が全て検出された。加えて、関連分子であるヒポキサンチンやキサンチン、チミンの構造異性体である6-メチルウラシル、ビタミンB3であるニコチン酸およびその同族体分子、その他の含窒素有機分子群(アミノ酸、尿素、エタノールアミン)も新たに検出された。

HPLC/HRMSによって検出されたリュウグウ試料の塩酸抽出液中の核酸塩基。(A)アデニン、(B)グアニン、(C)シトシン、(D)ウラシル、(E)チミンおよび6-メチルウラシルに対応するマスクロマトグラムを示す。画像クリックで表示拡大
この結果は、リュウグウ試料中の可溶性有機分子群が、従来考えられていた以上に多様性を有していることを示している。とくに、地球上には存在しない6-メチルウラシルの検出は、見つかった核酸塩基が非生命起源であり、かつリュウグウ起源であることを示す重要な証拠といえる。
古賀さんたちはオルゲイユ隕石(最も始原的な炭素質隕石の一つ)についても分析を実施し、同様に5種の核酸塩基を検出した。また、リュウグウ・ベンヌ・オルゲイユ隕石・マーチソン隕石の試料の比較からは、地球外での核酸塩基生成メカニズムの理解につながる結果も得られている。

(左)リュウグウとその他の地球外物質試料中の核酸塩基分布の比較。(A)リュウグウ、ベンヌ、オルゲイユ隕石、マーチソン隕石中のプリン塩基、ピリミジン塩基、全核酸塩基の濃度を示した棒グラフ。リュウグウの核酸塩基濃度は他試料よりも小さいことがわかる。(B)各試料におけるプリン/ピリミジン比(過去に実施された室内実験での値も含む)。(C)リュウグウ、べンヌ、オルゲイユ隕石において観察されたプリン/ピリミジン比とアンモニア濃度の負の相関。
(右)リュウグウ、ベンヌ、オルゲイユの母天体で起こっていたと考えられる核酸塩基合成経路の概念図。ピリミジン塩基はCHO分子と含窒素分子の反応、プリン塩基はシアン化物と含窒素分子反応で生成されるため、CHO分子とシアン化物の相対存在量の違いがプリン/ピリミジン比として反映されている可能性がある。画像クリックで表示拡大
リュウグウ試料中からDNAとRNAを構成する全5種の核酸塩基が検出され、他の多数の物質も発見されたという今回の成果は、過去のベンヌ試料や隕石の分析結果と合わせて、生命誕生以前の太陽系に遺伝物質の基本構成要素が存在していたことを強く示唆するものである。

今回の研究成果のイメージイラスト。リュウグウの歴史を記した「リュウグウ絵巻物」に、5種の核酸塩基が加わった
〈参照〉
- 海洋研究開発機構:小惑星リュウグウ試料から5種すべての核酸塩基を発見~炭素質小惑星には DNA/RNA の素材が普遍的に存在~
- Nature Astronomy:A complete set of canonical nucleobases in the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu 論文
〈関連リンク〉
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