リュウグウ試料から予想外の巨大有機分子を発見

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原子間力顕微鏡を用いたリュウグウ試料の観察により、環の数が最大100個を超える巨大有機分子が多数発見された。有機分子の進化過程の解明につながる重要な成果だ。

【2026年4月21日 東京大学大学院 新領域創成科学研究科

宇宙空間に存在する多様な有機分子は、太陽系が形成された際の化学進化の情報を保持していて、それらが初期の地球にもたらされたことで生命の誕生に寄与したとも考えられている。そのため、宇宙由来の有機分子がどのような構造を持ち、どのように形成されてきたのかを解明することは、宇宙化学における重要なテーマとなっている。

2020年、探査機「はやぶさ2」によって小惑星「リュウグウ」の試料が地球に届けられ、世界中でその分析が進められている。これまでの質量分析を中心とした研究では、リュウグウに数万種類もの有機分子が含まれていることが明らかになっている(参照:「リュウグウ試料から2万種の有機分子、固体有機物を検出」)。そのうち、6個の炭素原子が正六角形状に並んだ「ベンゼン環」がいくつも連なった構造を持つ「多環芳香族炭化水素(PAHs)」と呼ばれる有機化合物群については、環の数が4つ程度の比較的小さな分子(ピレンやフルオランテンなど)が主に存在することが報告されている。

リュウグウ試料で見つかった有機物
リュウグウ試料で見つかった様々な有機物の電子顕微鏡画像。(A)層状ケイ酸塩の中に入り込んだの球状の有機物、(B)球状またはドーナツ状の有機物や不定形の有機物、(C)層状ケイ酸塩の中に薄く広がった有機物、(D)炭酸カルシウムの結晶の内部に取り込まれた有機物(提供:Yabuta et al. 2023

しかし、化学的な抽出や質量分析には限界がある。とくに、きわめて巨大な分子や、溶媒に溶けにくい不溶性有機物のような成分は、従来の「重さを量る」手法では詳細な構造の特定が困難だった。

東京大学(研究当時)の岩田孝太さんたちの研究チームは、個々の分子の形を「直接見る」ことができる原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)を用いて、リュウグウの有機分子の構造に迫った。その結果、岩田さんたちが観察した22個の分子のうち多くが、従来の予想をはるかに上回る巨大な構造を持っていることが明らかになった。最大のものでは環の数が100を超え、見積もられる分子量は3000以上に達している。これは、従来の質量分析で主に検出されていた分子量200~500の分子とは本質的に異なる、新たな有機分子を可視化したことを意味している。

さらに内部構造を詳細に解析したところ、分子中の環を形づくる原子の数が6つ結合した六角形の環(6員環)に加えて、5員環や7員環、稀に8員環が含まれていることも判明した。これらの特殊な環状構造の存在により、分子が平坦ではなく、立体的にゆがんだ複雑な3次元構造をとっていることが明らかになった。

発見された多様な有機分子
発見された多様な有機分子のAFM画像。それぞれの有機分子のAFM画像と構造モデルを重ねたAFM画像を並べて表示。構造モデルの記号の色の違いは、環を構成する原子数の違い(5員環~8員環)に対応(提供:Iwata et al. 2026の図を改変)

今回の研究は、太陽系形成以前のガスや塵が濃く集まった星間分子雲から小惑星へと受け継がれた有機分子の進化過程の解明につながる、きわめて重要な成果である。

また、高分解能のAFMが、地球外試料に含まれる個々の分子の形を直接可視化し、従来は困難だった巨大で複雑な有機分子の構造を直接観察できる強力な手法であることを実証するものでもある。今後この測定手法をより広範な地球外試料に応用していくことで、宇宙における有機分子の化学進化の過程、さらには太陽系の形成や地球生命の起源へとつながる物質進化の全容解明に向けた研究が飛躍的に進展すると期待される。

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