天の川銀河のリチウムの1割は新星で作られた

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新星によって大量のリチウムが放出されるというシミュレーション結果が発表された。天の川銀河のリチウムには新星由来のものがかなり含まれるかもしれない。

【2020年6月8日 アリゾナ州立大学

米・アリゾナ州立大学のSumner Starrfieldさんたちの研究グループは、新星爆発でかなりの量のリチウムが宇宙空間に放出されることを数値シミュレーションで明らかにした。

新星は、白色矮星と普通の星の連星系で起こる爆発現象だ。相手の星から白色矮星に向かってガス(主に水素)が少しずつ降り積もり、やがて積もったガス層の底で水素の核融合反応が始まる。この反応は、恒星の中心部で起こる安定した核融合とは違い、いったん反応が始まるとガスの温度が上がり続け、それによってますます反応速度が上がるという不安定な性質を持っているため、暴走した核融合反応によって、降り積もったガスと白色矮星の物質の一部が爆発的に宇宙空間に吹き飛ばされる。爆発の頻度は白色矮星の質量や降り積もるガスの量によって変わり、数千年~数万年ごとに爆発する「古典新星」や、数十年おきに爆発を繰り返す「再帰新星(回帰新星、反復新星)」などがある。

へびつかい座RSのイラスト
新星の一例、へびつかい座RSのイラスト。大きく膨らんだ星(右)から白色矮星(左)に向かって絶えずガスが降り積もっていて、積もったガスの温度が約1000万度を超えると暴走的な核融合を起こし、表面の物質を吹き飛ばす。へびつかい座の方向約5000光年の距離にある連星系で、約20年ごとに爆発を起こす回帰新星に分類されている(提供:David A. Hardy)

新星は元素を生み出す現場としても注目されている。現在の元素合成の理論では、宇宙に存在する100種類ほどの元素のうち、最も軽い水素とヘリウム、それにごく少量のリチウムがビッグバン直後の熱い宇宙の中で合成されたと考えられている。残りの元素はほぼ全て、後の時代に恒星内部の核融合反応や、大質量星の最期である超新星爆発、中性子星同士の合体現象で合成されたものだが、新星爆発もいくつかの元素の供給源になっていると最近では考えられている。

中でもリチウムについては、爆発直後の新星の観測から、リチウムの元となるベリリウム7が放出されている証拠が発見されている(参照:「板垣さん発見の新星でわかった、宇宙のリチウム合成工場」)。

Starrfieldさんたちはこうした観測結果を踏まえて、新星によってリチウムのような元素がどのくらい放出されるかを数値シミュレーションで調べた。その結果、白色矮星の表面に降り積もったガスの中でヘリウム3とヘリウム4からベリリウム7が合成される核融合反応が起こり、これが新星爆発で放出される様子を再現することができた。

ベリリウム7は放射性同位元素で、約53日の半減期でリチウム7に変わる。Starrfieldさんたちが天の川銀河全体で新星から供給されるリチウムの量を見積もったところ、太陽質量の約100倍という結果になった。これは天の川銀河に存在するリチウムの総量の約1割を占める計算だ。

「リチウムは耐熱ガラスやセラミックス、リチウム電池、リチウムイオン電池、向精神薬など、広い用途に使われている重要な物質です。この元素が宇宙のどこから来たのかを知ることができるのは素晴らしいことです」(Starrfieldさん)。

さらに研究チームでは、こうした連星系がやがてIa型超新星になるかどうかについても調べた。Ia型超新星は、何らかの原因で白色矮星の質量が太陽の約1.4倍(チャンドラセカール限界質量)を超えた場合に星全体が爆発する現象だが、新星の場合、降り積もったガスよりも爆発で放出される質量の方が多いため、白色矮星の質量は増えていくことはなく、Ia型超新星にはならないとこれまでは考えられてきた。

Starrfieldさんたちは、最初の白色矮星の質量や降り積もるガスの量、降り積もったガスと白色矮星の表面物質の混ざり具合など、様々な条件を変えてシミュレーションを行った。その結果、多くのケースで、新星爆発で放出される物質の量は降り積もったガスの量を超えないという結果になった。これが正しいとすると、爆発を繰り返しながらも白色矮星の質量は次第に重くなり、やがては限界質量を超えてIa型超新星となるはずだ。研究チームでは、新星がIa型超新星の親星になりうることを示す重要な結果だとしている。

(文:中野太郎)

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