火星探査機インサイト、掘削を断念
【2021年1月21日 NASA JPL】
2018年11月に火星に着陸したNASAの探査機「インサイト」は、従来の火星着陸機が表面の地形や岩石を調べていたのに対して、地震計など火星の内部構造を調べることに特化した観測装置を搭載している。その一つである熱流量測定装置「HP3(Heat Flow and Physical Properties Package)」は、プローブで地下を最低3m掘り進んでから火星内部の温度を計測する予定だった。
通称「モグラ(mole)」と呼ばれるプローブは長さ40cmほどで、内蔵されたハンマーで先端を杭のように打ち付けて掘削する仕組みになっている。これは、過去に火星で走行した探査車が明らかにしたように表面がさらさらした土砂で覆われていることを前提としていた。土砂がプローブを包み込んで支えることで、反動で戻ってしまうのを防ぐはずだったのだ。
ところが、2019年2月28日に掘削を開始したプローブは地下30cmほどで止まってしまった。どうやらインサイト周辺の土壌は、互いにくっついたままでまとまる性質が予想外に強かったらしく、プローブが穴を掘ってもそこに土が流れ込まないため、反動を防ぐ支えがなくなってしまったようだ。対策として、インサイトのロボットアームに取り付けられたスコップでプローブの周りに土を流し込んだりプローブを直接押さえたりしたが、それでもプローブ全体をなんとか地面に埋めるのが精一杯だった。
HP3は本来の目的を諦めることになったものの、インサイトに携わる研究者たちは、今回の試みで得られた土砂に関する知見は将来の探査に役立つだろうとしている。また、ロボットアームを想定外の形で操作することは、インサイト運用チームにとっても糧となる貴重な経験だったという。
インサイトは当初2020年までの運用を予定していたが、NASAはこれを2022年12月まで延長することを決めている。今後も活躍が期待されるのは、これまでに480回以上の「火震」(火星の地震)を記録している地震計だ。着陸機本体と地震計をつなぐケーブルは外に露出しているため、気温の変化に伴う雑音を拾いやすかったが、今回の件でスキルアップした運用チームは、ロボットアームを使ってケーブルを埋める計画だという。
関連記事
- 2024/11/26 2024年12月上旬 火星とプレセペ星団が接近
- 2024/11/14 2024年11月20日 月と火星が接近
- 2024/10/22 【特集】火星(2025年1月12日 地球最接近)
- 2024/10/17 2024年10月23日 月と火星が接近
- 2024/10/03 火星の地震波が示す、液体の水が地下に存在する可能性
- 2024/10/03 「火星のクレーター」を教室に再現!ドラマ「宙わたる教室」が10月放送開始
- 2024/09/25 太古の火星でホルムアルデヒドが有機物生成に寄与
- 2024/08/07 2024年8月中旬 火星と木星が大接近
- 2024/07/24 火星大気中の塩化水素を全球で検出
- 2024/07/11 2024年7月下旬 火星とプレアデス星団が接近
- 2024/07/08 2024年7月中旬 火星と天王星が大接近
- 2024/06/25 2024年7月2日 細い月と火星が接近
- 2024/06/17 火星の赤道地方の山頂で霜を検出
- 2024/05/27 2024年6月3日 細い月と火星が大接近
- 2024/05/17 初期火星の有機物は一酸化炭素から作られた
- 2024/04/24 2024年5月5日 火星食
- 2024/04/24 2024年5月5日 細い月と火星が接近
- 2024/04/19 2024年4月下旬 火星と海王星が大接近
- 2024/04/04 2024年4月中旬 火星と土星が大接近
- 2024/02/15 2024年2月下旬 金星と火星が大接近