火星の地下氷が豊富な領域を特定、有人探査の着陸候補

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「周氷河地形」と呼ばれる地形に着目した研究で、火星の地下氷が豊富に存在する領域としてアラビア台地などが特定された。将来の火星有人探査の着陸候補地として適した場所になりそうだ。

【2025年1月24日 東京科学大学

これまでの探査や観測から、約40億年前の火星は大きな海が広がる温暖湿潤な環境だったことが示されている。その海水の一部は現在も中・高緯度域の地下数十cm~数mに永久凍土として多量の水氷として保存されていると考えられ、隕石衝突でできた新しいクレーターの底部に露出した氷が実際に確認されている。

こうした浅い地下に存在する水氷がどこにどれだけ分布しているのかがわかれば、将来の火星有人着陸探査において飲料等として水を利用しやすい場所が特定でき、非常に有益な情報となる。

将来の火星有人探査のイメージ図
火星上の浅部地下氷を水資源として利用する将来の有人探査のイメージ図(提供:東京科学大学リリース、以下同)

岡山大学の佐古貴紀さんたちの研究チームは火星の中緯度域における浅部地下氷の分布を把握するために、「周氷河地形」と呼ばれる特殊な地形に着目した研究を行った。

周氷河地形は、地球ではアラスカ、カナダ、ロシア、モンゴル北部といった寒冷地に主に分布している、永久凍土地帯に発達している地形だ。火星の中・高緯度域でも地球の周氷河地形と形状が類似した地形が発見されていて、地球と同様に地下氷の存在によって形成される地形だと考えられる。

佐古さんたちはNASAの火星探査機MROが撮影した高解像度画像から、地下に氷が豊富に存在する場所の手がかりとなる3種の周氷河地形「ポリゴン地形」「ピンゴ」「ブレインテレーン」に似た地形の分布を調べた。

3種の周氷河地形の構造と火星中緯度域に見られる地形
(上)地球で見られる3種の周氷河地形の構造、(下)火星に実際に見られる、上段に対応する地形

すると、アラビア台地、ユートピア平原、アマゾニス平原の領域で、とくに3つの周氷河地形が密集して分布していることが明らかになった。これらは、クレーター底部に氷が露出した場所や、気候モデルで推定されている積雪量の多い場所の分布ともよく似ている。

周氷河地形分布の探索結果とモデル等との比較
火星中緯度域の周氷河地形分布の探索結果とモデル等との比較。画像クリックで表示拡大

周氷河地形のうちポリゴン地形は、地下氷の量によって地表の形状が変化することが知られている。火星に見られるポリゴン地形の形状ごとの分布を調べたところ、地下氷量が多いタイプのもの(上図の「中央低下型ポリゴン」)がいくつかアラビア台地、ユートピア平原、アマゾニス平原に分布していた。佐古さんたちは、これらのエリアは地下氷が豊富に存在する場所である可能性が高いとみていて、将来の火星有人探査の着陸候補地として提案している。

また、ユートピア平原の西部では地下氷が減少したタイプのポリゴン地形(上図の「大小混合型ポリゴン」、地球ではカナダ極北に見られるもの)と類似したものが多く、このエリアで過去から現在にかけて地下氷量が大きく減少したことを示唆しているのかもしれないという。今回の研究成果は、将来の火星探査において重要なデータとして活用されるだろう。