彗星コマ中のアンモニア分子の起源
【2023年11月28日 京都産業大学】
彗星は太陽系において最も始原的な小天体の一つであり、その研究は太陽系の起源や進化についての理解につながる。彗星に含まれる炭素、酸素、窒素の組成比は太陽の組成比とよく似ているが、窒素だけはやや少ない。ヨーロッパ宇宙機関の探査機「ロゼッタ」によるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)の直接探査では、窒素欠乏の原因がアンモニウム塩と考えられる結果が得られている。窒素原子が、揮発性の高い氷に含まれるアンモニア分子やシアン化窒素だけでなく、アンモニウム塩として固体の形で彗星核に取り込まれており、普段はガス化しにくいために観測されないことが原因である、というものだ。
他の彗星でも同じようなことが起こっているのかを調べるため、京都産業大学神山宇宙科学研究所・神山天文台の河北秀世さんたちの研究チームは2015年、米・ハワイ島のケック望遠鏡を用いてラブジョイ彗星(C/2014 Q2)を観測した。その結果、アンモニア分子は彗星核から直接放出されているのではなく、彗星コマの中で別の分子などから二次的に放出されているという結果が得られた。
さらに河北さんたちは彗星コマのガス流れを再現するシミュレーションを実施し、どのような分子からアンモニア分子が生成されているかを調べた。シミュレーションの結果と実際に観測されたアンモニア分子の分布とを比較したところ、アンモニア分子の元となる物質が、太陽からの紫外線のエネルギーで分子が壊れる「光解離現象」に対して500秒程度の寿命を持つことが明らかになった。シアン化アンモニウムや塩化アンモニウム等の単純なアンモニウム塩が寄与していた可能性は、光解離で生成されるシアン化水素や塩化水素の空間分布との比較から否定的な結果だという。
今回の研究では、アンモニア分子の元となる物質の特定には至っていないが、光解離に対する寿命に制限がつけられたことは重要な成果だ。今後は実験室での起源物質調査が進むと期待される。
〈参照〉
- 京都産業大学:彗星コマ中のアンモニア分子はどこから来たか?
- The Astronomical Journal:Direct Simulation Monte Carlo Modeling of Ammonia in Comet C/2014 Q2 (Lovejoy) 論文
〈関連リンク〉
- ESA
- W. M. Keck Observatory
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:ラブジョイ彗星(C/2014 Q2)
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