約70億年前の宇宙温度がビッグバン理論の予測と完全一致

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アルマ望遠鏡の観測データに基づいて測定された、70億年前の宇宙マイクロ波背景放射の温度が、ビッグバン宇宙論の予測値と完全一致した。宇宙論の検証に重要な制約を与える成果だ。

【2025年11月6日 慶応義塾大学

宇宙は高温・高密度の“火の玉状態”から始まり、膨張に伴って現在の低温・低密度状態になったと考えられている。この「ビッグバンモデル」は1960年代以降から有力な宇宙進化のモデルとされてきた。

ビッグバンモデルの強力な観測的証拠とされているのが、全天から一様かつ等方的に届く「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」だ。初期宇宙を満たしていた高温の黒体放射が、宇宙膨張と共に温度を下げながら届いたものと理解されていて、現在の宇宙におけるCMBの温度は約2.7Kで観測される。

宇宙マイクロ波背景放射
ヨーロッパ宇宙機関の天文衛星「プランク」による宇宙マイクロ波背景放射の観測結果。ほぼ一様だがわずかに温度にムラがあり、その揺らぎを色で表している(提供:ESA and the Planck Collaboration

このモデルに基づけば、CMBの温度は過去に遡るほど上昇すると予測される。これは、過去の宇宙におけるCMB温度を精密に測定すると、宇宙モデルの観測的検証が可能であることを示している。

慶応義塾大学の小谷竜也さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡が観測したクエーサー「PKS 1830-211」方向のデータを解析し、過去の宇宙のCMB温度を測定した。このクエーサーはいて座の方向約110億光年彼方にあり、地球で観測されるまでの間に存在する70億光年彼方の銀河で光が吸収されている。この吸収の強度を解析すると、70億年前の宇宙のCMB温度がわかるのだ。

クエーサー、吸収を生じる銀河、私たちの関係
背景のクエーサー(PKS 1830-211、110億年前の宇宙)、光の吸収を生じる銀河(70億年前の宇宙)、私たち(現在)の関係を示す模式図(提供:慶応義塾大学リリース、以下同)

今回の研究では、視線を遮る吸収ガスが均一に分布していないことや、吸収強度の時間変動、吸収ガスが背景光を遮蔽する効果を考慮に入れ、過去の研究よりも吸収ガスの物理状態を正確に反映した測定を行った。その結果、吸収ガスが存在する約70億年前の宇宙におけるCMB温度が5.13±0.06Kと得られた。先行研究に比べて約40%も精度が高く、中間赤方偏移においてこれまでで最も信頼できる値である。同時に、標準的なビッグバン宇宙論による基本予測の値と完全に一致しており、「昔の宇宙は熱かった」という予測の正しさを70億年前の時点で確認する結果でもある。

CMB温度の赤方偏移に対する依存性
CMB温度の赤方偏移に対する依存性。今回(赤マーク)と先行研究(黒マーク)をモデル式でフィットした結果(青実線と影)。今回の結果は標準モデル(黒破線)と誤差の範囲内で一致し、ビッグバン理論を70億年前の宇宙で検証したものとなる

小谷さんたちはアルマ望遠鏡を用いて、他の方向に対して今回と同様の吸収線観測を予定している。今後さらに過去の(遠い)宇宙におけるCMB温度が精密に測定されれば、ビッグバン宇宙論の厳密な検証につながるだろう。

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