イオ由来のオーロラを利用して木星プラズマの形を求める

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衛星イオが引き起こす木星オーロラのデータを使う研究で、木星を取り巻くドーナツ状のプラズマが、木星の夜明け前に当たる方向に偏っていることが明らかになった。

【2026年2月18日 東北大学

木星の衛星イオは、太陽系の中で最も火山活動が活発な天体だ。イオの大気は二酸化硫黄などの火山性ガスからなり、これが宇宙空間へ流出することで、木星を取り巻くドーナツ状のプラズマの雲(プラズマトーラス)が形成されている。

プラズマトーラスは木星磁気圏で起こる様々な物理現象の源になっていて、その内部を公転するエウロパやガニメデなどの氷衛星の環境とも関連している。そのため、プラズマトーラスの構造を知ることは木星系全体を理解する上で重要だ。

木星の磁気圏
木星磁気圏の想像図。内側のドーナツ状の領域が、イオの公転軌道に沿って存在するプラズマトーラス。トーラス上にイオが描かれている(提供:JAXA/ISAS

プラズマトーラスは赤道面付近に広がり約10時間という高速で回転しているため、極方向から見ると真円の形になりそうに思えるが、実際には木星周囲の電場からの電磁力を受けて、真円からずれた形を保っていることが知られている。だが、地球からの観測では木星の夜側を見ることができないため、トーラスの歪みの大きさや向きは正確にはわかっていなかった。

東北大学大学院理学研究科附属惑星プラズマ・大気研究センターの佐藤晋之祐さんたちの研究チームは、プラズマトーラスの形を把握するカギとして、イオの影響で木星の極域に発生する「フットプリントオーロラ」という現象に着目した。

木星の紫外線オーロラと衛星由来のフットプリントオーロラ
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた木星の紫外線オーロラ。メインとなる円形のオーロラの外にある画面左の光点が衛星イオ由来のフットプリントオーロラで、イオから放出された荷電粒子が磁力線に沿って移動し、木星大気とぶつかる点を示す。画面中央やや下の2個の光点はガニメデ(左)とエウロパ(右)のフットプリント(提供:NASA/ESA, John Clarke (University of Michigan)

フットプリントオーロラは、イオがプラズマトーラスの中を公転することでアルベン波と呼ばれるエネルギーの塊が発生し、これがイオから木星の極域までつながる磁力線に沿って伝わって、木星大気に電子が注入されることで発生する。この、イオのフットプリントオーロラが出現する経度は、イオからの磁力線が木星大気と交わる位置から少しずれている。磁力線沿いに存在するイオンなどの物質が多いほど、アルベン波がイオから木星まで伝わるのに長い時間がかかるためだ。

フットプリントオーロラ
(左)探査機「ジュノー」が撮影した木星南半球の紫外線オーロラ。(右)イオのオーロラフットプリントの画像例。オーロラフットプリントの位置はイオからの磁力線が木星と交わる点(磁気フットプリント)に対して経度方向に少しずれている(提供:プレスリリース、以下同)

物質密度とアルベン波の伝播
木星周囲のイオンなどの物質密度とアルベン波の伝播速度の関係。磁力線沿いの物質密度が大きいほどアルベン波の伝播が遅くなり、フットプリントオーロラの位置のずれ(リード角)が大きくなる

佐藤さんたちは、NASAの木星探査機「ジュノー」が2016~2022年に撮影したオーロラの画像データを用いて、イオフットプリントオーロラの位置を測定した。これとあわせて、木星周囲の物質分布によってフットプリントオーロラの位置が変化する様子をシミュレーションし、ジュノーのオーロラ画像を最もよく再現する物質分布を求めた。

プラズマトーラスに歪みがあれば磁力線沿いの物質分布も変わるため、この方法で物質分布の長期的な変化を統計的に解析することで、プラズマトーラスの歪みの向きと大きさを木星周囲の全方向にわたって算出できる。佐藤さんたちはこの手法で、木星の昼夜半球の制約に影響されることなく、プラズマトーラス全体の形を求めることに成功した。

解析の結果、イオと木星を結ぶ磁力線沿いの物質の密度は、木星表面が夜明けを迎える少し前、地方時が3時42分となる位置で最大となり、正反対の15時42分の位置で最小になることがわかった。このことから、プラズマトーラスは地方時3時42分~15時42分(±53分)の方向に歪んでいることが示された。また、歪みの原因である電磁力も同様の方向に働くことが確かめられた。さらに、過去の研究との比較から、トーラスの歪みの方向は常に一定ではなく、長い時間をかけて変化していることも明らかになった。

物質密度の地方時依存性とプラズマトーラスの俯瞰図
(a)今回算出された、磁力線に沿った物質密度の変化の様子。地方時3時42分に物質密度が最大となっていて、これがプラズマトーラスの歪みの方向に対応している。(b)プラズマトーラスを北極方向から見た図。画面下が太陽の方向で、真円からの歪みの向きと量を赤の矢印で示している。歪みの量は実際の3倍に拡大している。画像クリックで表示拡大

今回の成果から、木星系の様々な現象を引き起こしているプラズマトーラスの空間構造に新たな知見がもたらされた。生命の存在可能性があると注目されているエウロパなどの氷衛星の環境を理解する上でも重要なデータとなる。