渦巻き模様が伝える星の最期のメッセージ
太陽の8倍程度よりも質量の小さい星は一生の最期に大きく膨んで、「赤色巨星」と呼ばれるタイプの星になる。赤色巨星から放出されたガスは、進化が進んでむき出しになった中心星の芯から放たれる強烈な紫外線に照らされ、「惑星状星雲」として見えるようになる。
惑星状星雲はさまざまな形を見せる天体だが、外側は球対称に近い一方で内側は非対称な形状を持ったものもある。まったく性質の異なる形状が一つの天体の中に共存することは非常に不思議だが、中心星が連星をなしていることが不思議な形状を理解する鍵になると考えられている。これを実際に観測で確かめるには、星の周りに生じたパターンを詳しく解析することが重要な手がかりとなる。
台湾中央研究院天文及天文物理研究所のHyosun Kimさんたちの国際研究チームは、約3400光年の距離に位置する赤色巨星「ペガスス座LL星」をアルマ望遠鏡で観測した。ペガスス座LL星は直径が太陽の200倍以上に膨らんで盛んにガスを放出しており、惑星状星雲になる一歩手前の段階にある年老いた星だ。
観測によってペガスス座LL星から継続的に噴出したガスが放つ電波がとらえられ、星の周囲に広がるガスの渦巻き模様がはっきりと描き出された。
この星は連星をなしており、渦巻き模様の解析から連星系の軌道運動を導き出すことができる。シミュレーションと観測結果を比較したところ、渦巻き模様を作り出すためには連星の軌道が非常に細長い楕円であることが必要だとわかった。とくに、観測画像にもはっきりと表れている渦巻き腕の枝分かれこそが、細長い軌道を持つ連星系に特有の構造であることが突き止められた。
また、アルマ望遠鏡による観測では星の周囲を取り巻くガスに含まれる一酸化炭素やHC3N分子が放つ特定の周波数の電波をとらえており、ドップラー効果による周波数のずれからガスの運動を測定することができる。これにより、星から放出されるガスの運動が伴星の運動に伴って変化していく様子を明らかにすることができた。渦巻きの間隔の測定から、ペガスス座LL星を含む連星系の周期は約800年と推定されている。
今回の成果は、星の直径の数千倍にも広がったガスの形状から、中央部に隠されて実際には直接観測できない連星の性質を調べるという、新しい研究手法を開くものだ。「この印象的な渦巻き模様は、自然からのメッセージといってもいいでしょう。メッセージを解読し年老いた中心星の姿を明らかにすることに、天文学者は挑んでいるのです」(Kimさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡: 渦巻き模様が伝える星の最期のメッセージ
- Nature Astronomy: The Large-Scale Nebular Pattern of a Superwind Binary in an Eccentric Orbit 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡: http://alma.mtk.nao.ac.jp/
関連記事
- 2022/10/13 軌道周期が51分の激変星
- 2022/09/22 2022年10月 シリウスの伴星Bが最遠
- 2022/04/26 新種の爆発現象「マイクロノバ」を発見
- 2022/02/14 シリウスの伴星の観察に挑戦しよう
- 2022/01/18 「宇宙の噴水」は共通外層を持つ連星だった
- 2021/10/11 アルマ望遠鏡が描く双子の星の軌道運動
- 2021/02/12 ベテルギウスの爆発は10万年以上先になりそう
- 2020/10/12 過剰なリチウムは赤色巨星の進化段階を示す
- 2020/09/23 宇宙に塵を供給する、終末期の大質量連星
- 2020/09/11 3連星を取り巻く惑星系円盤の3重構造
- 2020/05/08 これまでで最も地球に近いブラックホールを発見
- 2020/03/27 太陽が2つある惑星の回り方
- 2020/03/10 ほんの60年前にジェットを噴出して変身し始めた老齢の星
- 2020/02/10 連星系で作られた美しいガスの広がり
- 2019/10/25 プレッツェルのような双子星の「へその緒」
- 2019/09/11 双子原始星からの不揃いな分子流を検出、連星系形成の謎に迫る
- 2019/04/02 アルマ望遠鏡で観測、大質量連星の誕生現場
- 2018/10/29 惑星状星雲の中心に3時間周期の連星
- 2018/08/20 アルビレオは連星ではなく見かけの二重星
- 2018/05/15 38分周期で公転するX線パルサー連星