明るさを増す恒星風の衝突現場
【2018年2月9日 ヨーロッパ宇宙機関】
太陽の数倍以上の大質量星からは時速数百万kmというすさまじい「恒星風」が吹き、1か月のうちに地球の質量に匹敵するほどの物質を放出する。そのような恒星風同士が衝突すると、膨大なエネルギーが解き放たれ、周囲のガスは数百万度という高温となり、X線で明るく輝くようになる。通常、恒星風同士の衝突ではほとんど変化はなく、星やその軌道にも変化は起こらない。しかし、一部の大質量星は激しいふるまいを見せる。
その一例が、約20万光年彼方にある小マゼラン雲内の散開星団「NGC 346」の中に存在する連星「HD 5980」だ。それぞれ太陽の60倍ほどの質量を持つ星が、太陽・地球間よりも近い約1億kmの距離で互いの周りを回っている。1994年には連星のうちの1つがアウトバースト(急増光)を見せ、欧州の宇宙望遠鏡「XMMニュートン」やNASAの天文衛星「チャンドラ」を用いたX線観測で高温ガスの調査が行われてきた。
2007年には、2000年~2005年のX線観測データから、2つの星が吹き出す恒星風同士の衝突の様子が見つかった。これを発表したベルギー・リエージュ大学のYaël Nazéさんらが2016年に再び「XMMニュートン」で観測したところ、連星は10年前の2.5倍も明るくなっており、X線放射は一層強力になっていた。
「星が通常の状態に戻るにつれて連星が年々穏やかになっていくだろうと予測していたのに、それとは逆のことが起こっていたので驚きました。恒星風同士の衝突でこのような様子を見たことがありませんでした」(Nazéさん)。
物質の放出が減るにつれて放射が強まるというこの一見不可解な現象については、2014年に「恒星風が衝突するとその衝撃で大量のX線が放射されるが、放射が激しすぎると急速に冷えて衝撃が不安定になり、X線放射が弱まる」というシナリオが提案されていた。「2000年代の初観測時にこのプロセスが起こっていたと思われますが、その後衝撃が和らいで安定したために、2016年までにX線が強まったものと考えられます」(Nazéさん)。
理論的仮説を初めて観測で実証したNazéさんたちは現在、コンピューターシミュレーションを通じてより詳細に検証を進めている。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関:Stellar Winds Behaving Unexpectedly
- The Astrophysical Journal:A changing wind collision 論文
〈関連リンク〉
- X線宇宙望遠鏡「XMMニュートン」
- X線天文衛星「チャンドラ」:
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