地球に近い、火星の地形
【2005年11月1日 Geocity News Release / NASA Goddard Space Flight Center News】
10月30日に、火星は今回の接近の地球最接近となり、2003年の大接近に続き話題となっている。その一方で、火星ではいくつもの探査機が活動しており、火星が近くても遠くても連日地球に貴重な情報を送ってくれている。こうした探査の最新成果の中から、特に火星の地形に着目したものを二つ紹介する。地球に比べほとんど活動のない不毛な惑星と見られがちな火星だが、意外なほど大きな変化が起きていて、中には地球によく似た面も数多くあるようだ。
氷河によって形成された地形の新たな証拠
火星の極冠はよく知られているが、どうやらかつては中緯度地帯にも氷があり、氷河を形成していたようだ。火星探査機、マーズ・オデッセイおよびマーズ・グローバル・サーベイヤーが撮影した画像が地球上の氷河による地形と非常によく似ているからだ。
火星の中緯度から赤道付近にかけて見られる堆積物が、氷河によって作られた可能性は数十年前から指摘されていたが、それを裏付けるだけの高解像度写真はこれまでなかった。しかし、二つの探査機が送ってきた画像にはいくつもの証拠があった。
たとえば、谷底にたまった砕せつ物(砕かれた岩)である。砕せつ物は高い方から低い方への、谷の岩壁に平行な流れをなぞるような線を描いていた。地球の氷河の航空写真で見られる特徴にそっくりだ。もっとも、地球では氷河が溶けると水の流れとなるため砕せつ物も流されてしまうが、火星では氷は昇華(固体が直接気体になる)するため、そのままになっているという。
もう一つは、氷河の先頭が作り出すような地形だ。そこにはくぼみがあり、そこから砕せつ物が、いくつもの弧を描くようにして広がっている。
ではなぜ極地方から離れたところに氷河ができたのか? どうやら、計算によると火星の自転軸の傾きは少しずつ変動していて、現在は24度(地球とほぼ同じ)であるのに対し最大で60度も傾いたかもしれないというのだ。こうなると、極地方にはより日が当たりやすくなり、氷も昇華してしまう。水蒸気は赤道の方まで運ばれ、そこで氷河を作ることができるとある研究者は話している。
火星の自転軸は地球とほぼ同じで、四季があることはよく知られている。一方、その四季の変動もごくごく小さく、火星は気候的に死んだも同然というのが一般的なイメージだ。だが、実はそれは大きな変動を見せる火星の、ほんの一部しか見ていないだけなのかもしれない。
火星は、昔地球のようだった―大規模なプレートテクトニクス
かつて火星でも、地球のようなプレートテクトニクスがあったという説がかなり有力だ。初めての証拠は、1999年に火星探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーが南半球の一部で調べた、地殻中の岩石が帯びている磁気の強さと方向だ。その後4年かけて観測された、火星全体における磁気分布はこれをさらに強く支持するものとなった。
なぜ磁気を調べることでプレートテクトニクスの存在がわかるのか?
プレートテクトニクスが働いていて、北極にS極があり南極にN極があるような磁場を持つ地球では、次のような現象が見られプレートテクトニクスの重要な証拠となっている。プレートが地表に出てくる前は高温で磁気を持たないが、ある程度冷えるとそのときの地球の磁場に沿って磁気を帯びるようになる。一方、地球全体の磁場は百万年に数回の割合で、S極とN極が逆転する。そのため、プレートを(地表に出たばかりの)新しいところから古い方へ向かって観察すると、帯びている磁気の方向がところどころで逆転して、色分けすれば縞模様ができるのだ。マーズ・グローバル・サーベイヤーが見たのは、まさにこの縞模様なのだ。
かつてプレートテクトニクスが起きていたと考えると、火星の特徴的な地形の多くが説明できるという。例えば、マリネリス峡谷はプレートが二つに裂けようとした結果形成されたようだ。
地球「大陸移動とプレートテクトニクス理論」: プレートテクトニクス理論では、地球の表面は十数個のプレートでおおわれていると考えます。プレートとは、地殻とマントル上部の硬い部分をあわせたもので、その下の軟らかいマントルに「浮かんで」いて、少しずつ移動しているというのです。その動きで大陸は長い年月をかけて動いていきます。実際、大西洋中央の海底にある海嶺で、プレートが成長しているようすが認められています。
火星の地形「マリネリス峡谷」: 火星の赤道付近に横たわるのがマリネリス峡谷。この峡谷は、地殻が裂けた深い溝です。全長は約5000キロメートルで、日本列島よりも長くのびています。深さは最大で8〜10キロメートルもあります。
(太陽系がよくわかる「太陽系ビジュアルブック」より一部抜粋)