星ナビ 2008年9月号
レポート/川村 晶+星ナビ編集部
2008年10月20日
縮めて移動、伸ばして観望
「Kenko Sky Explorer SE300D」
ここ数年、安価な大口径ドブソニアンが何機種も発売されているが、ケンコーのスカイエクスプローラーシリーズにも口径30cmのドブソニアンが加わった。メーカー製としては日本で唯一の伸縮式鏡筒を採用し、輸送時や収納時の利便性を考慮したSE300Dがそれ。さっそく、組み立てから移動・観望まで、フィールドで試用してみた。
世界初?伸縮式鏡筒
ケンコーのスカイエクスプローラーシリーズは、自動導入を実現したSEIIやEQ6PRO赤道儀を中心に、比較的安価なアクロマート鏡筒やニュートン反射鏡筒から、アポクロマートED屈折といった高級機まで、豊かな鏡筒バリエーションを展開している。これらに加え、2008年の春からはドブソニアンやフリーストップ経緯台などもラインアップに加わった。
今回紹介するスカイエクスプローラーSE 300D(以下SE300Dと記す)は、口径305mm、焦点距離1500mmという仕様のニュートン反射鏡筒を簡易な経緯台に搭載したドブソニアンである。ここ数年、安価な設定ながらも実用充分な大口径ドブソニアンが各社から販売されている。SE300Dも168,000円というメーカー希望小売価格が設定されているが、望遠鏡販売店での実販価格は12万円台半ばという、かなり安価な価格設定である。
ドブソニアンは、その生い立ちから、かつては自作機がほとんどだったが、1990年代半ばからはメーカー製のドブソニアンが流通し始めた。そして、価格的にはもはや自作の利点がないほどの機種も登場する。その当時のメーカー製ドブソニアンには、鏡筒の素材として、ボイド管とよばれる紙製のパイプを採用した機種もあった。円柱状のコンクリートの基礎を造るためのパイプで、自作用の素材として多用されていたが、紙製ということで、湿気の多い日本においては耐久性にやや難があった。そうしたことからも、近年に国内で販売されているメーカー製のドブソニアンは、金属製の鏡筒を採用したものがほとんどである。
また、安価なメーカー製のドブソニアンに共通しているのが、架台部の素材である。いずれもパーティクルボードと呼ばれる板材が使用され、それをユーザーが木ねじで組み上げるというスタイルが一般的である。パーティクルボートとは、木材を小さく砕き、乾燥させ、さらに接着材と混ぜ合わせて加熱圧縮して成形したもので、安価な組み立て式の家具などにも用いられる素材だ。SE300Dも金属製の鏡筒とパーティクルボードを素材とした組み立て式架台の組み合わせだ。架台部と鏡筒は簡単に分離できるため、空の暗い場所に車で移動しての観望では、それぞれを分離したまま積み込むことが可能だ。
SE300Dのもっとも特徴的な点は、鏡筒が伸縮式となっていることだ。完成した姿を見ると、鏡筒は斜鏡や接眼部を取り付けた部分と、主鏡を収める部分のふたつに分割され、それぞれを3本のパイプで接続されているのがわかる。このパイプがスライド式となっていて、スライドパイプの長さだけ鏡筒そのものが縮まるという伸縮機構が組み込まれている。つまり、縮めて全長を短く、同時に体積を小さくすることで移動や収納に便利な「移動収納形態」となり、伸ばすことで実際の観望が行える「観望形態」へと変形できるというわけだ。焦点距離1500mmのニュートン反射を乗用車の後部座席に横たえて空の暗い場所へ移動するのは物理的に不可能だ。しかし、伸縮式のSE300Dなら、それが可能になる。より大きな口径を望むがゆえに、鏡筒が長大となり、その鏡筒を運搬するために大きな車が必要だったのが、普通の乗用車でも運搬できるようになるというわけだ。
これまでも鏡筒を分割したり、接眼部と反射鏡セル部を金属製のパイプなどで接続するタイプのドブソニアンは存在していたが、伸縮式のものはおそらく他に例を見ないだろう。分割式鏡筒の接続には、三角形を基本構造として、強度を保ちやすいトラス構造を採用するものが多かったが、SE300Dでは3本のパイプを光軸に平行で、さらに120度の間隔で鏡筒外周部に配置されている。スライド式としたことで、全長を短くできることに加え、分解や組み立てという煩わしさを緩和できる。しかし、観望形態から移動収納形態へと変形し、再び観望形態へとした時に光軸の再現性の確保や観望時の鏡筒そのものの強度が保てなければ、伸縮式鏡筒の持つ魅力は半減してしまう。こうした点は、実際に複数回、フィールドに持ち出して検証した(詳細後述)。