広いレンズ間隔が特徴的
ビクセンはバイザック光学系やVMC光学系など口径の大きな反射系や、屈折系のネオアクロマートなど野心的な光学系を世に送り出しているが、AX103Sもかなり特徴的な光学系である。
対物レンズは、中央にEDガラスの凸レンズ、前後にフリントガラスの凹レンズという配置の設計である。3枚玉アポクロマートとしてはよくあるスタイルだが、AX103Sでは3枚のレンズがそれぞれ20mmほど離されている。これほどレンズ間隔の広い設計は、あまり例がないだろう。レンズの枚数を増やし、さらにレンズどうしの間隔を開ければ、設計の自由度が増していく。その反面、レンズやセルの製作に高い精度が要求され、調整の難易度も増すといわれている。したがって、設計者は机上での光学設計のみならず、加工精度や調整の難易度など製造現場の技術や、製造コストに見合う範囲で生産可能なようにトータルな設計センスが問われる。いかにすばらしい性能の光学性能のレンズが設計できても生産不可能だったり市場に受け入れられない価格だと意味がないからだ。
各レンズの間隔が広いこともあって、対物レンズセルは異様に大きい。全長210mmほどの伸縮式フードの中のおおよそ半分のスペースがセルとレンズである。
対物レンズセルは、2つのパーツに大別できる。鏡筒の筒部に直接組み付けられている接眼部側のセルには、中央の凸レンズと後面の凹レンズがセルの前後から落とし込まれ固定されている。前面の凹レンズは別のセルに収められて後部のセルに6組の押し引きネジで組み付けられ、レンズ間隔・光軸の傾き・光軸のセンター出しの調整が可能になっている。後部のセルと2枚のレンズは加工精度のみで組み付けられている。
ビクセンによれば、試作当初、どのレンズがどう動くと星像の善し悪しにどう影響を与えるのかなど、コンピュータでシミュレーションをくり返し、レンズセルを何度も作り直したという。
4枚目のレンズであるフィールドコレクターレンズは、ドローチューブ内部に収められている。したがって、合焦のためにアイピースや撮像素子とともに動く構造だ。