本気の実力じゅうぶん
実際にAX103Sで夏の比較的シーイングのよい晩に、いろいろな天体を観望してみた。10cmクラスという口径は、暗く視直径の小さい系外星雲などの観望には向かないが、星像はいかにも屈折らしいシャープな像を示す。内外像はいずれも外輪が太く散るような印象だが、口径比を考えればじゅうぶんといえるほどの対称性を見せていた。ただし、レンズの間隔が広く、セルもスライド式フードによってカバーされているためか、外気温に馴染むのに時間がかかるようだ。夏の夕刻に眺めると星像が毛羽立ったようにニジんでいたが、時間ととともに干渉リングを伴った落ち着いた像に収まってきた。
まずは、いろいろな倍率で月面を観望した。仕様に「視野周辺においても20ミクロンの星像」という言葉があるが、広角の見かけ視界を持つアイピースでも像面の平坦性は良好だ。新たな技術として、レンズ面のコーティングに数値制御Precision Multicoatingを採用し、これにより可視光域での透過率を99.5%にまで高めたというが、実際にコントラストも高くフレアーも極めて軽微だった。バッフルや塗装など筒内反射防止策も行き届いていて、低倍率で月を視野の外ぎりぎりに置いても迷光は少ない。月齢24の月では、地球照の部分も明瞭に確認できた。
また、ちょうど観望好機の木星やいくつかのニ重星も高倍率で眺めてみたが、口径10cmクラスの屈折望遠鏡としては問題なく及第点といえる印象だ。残念なのはビクセンの純正アイピースのラインアップだ。どちらかというと価格と性能のバランスを追求した製品が多く、高倍率でAX103S性能を極限まで引き出すにはやや力不足の感がある。今後、高級路線への市場へ進出するには、高級アイピースの商品展開が不可欠といえるだろう。
眼視性能はもちろん、写真撮影適正が気になるという人も多いだろう。星像のチェック程度の撮影しか行っていないが、直焦点撮影では中心の星像はもちろん、35mm判フルサイズのデジタル一眼レフでの最周辺でも星像はじゅうぶん「丸い」形状を保っている。撮像素子の特性も考慮しないといけないが、周辺の光量も極端に低下していない。
また、発売が予定されている専用のレデューサーも試用した。イメージサークルが小さくなるため、APS-Cサイズ以下の一眼レフカメラにのみ対応するが、こちらも実用的なシャープな星像を見せている。
AX103Sを実際に試用してみて、ビクセンのかなりの本気度を感じたが、気になるのは他社製品の存在だ。国内メーカー製に限れば、価格や仕様で直接競合する機種はタカハシTAS-102S(3枚玉アポでスーパーEDガラス使用・288,750円)と35フラットナー(42,000円)という組み合わせだ。合わせて約33万円という価格だが、店頭値引きの実販価格を考えるとAX103Sのほうがいくらか安価になる。この点、現状の市場でもじゅうぶんな競争力があり、よく見えてよく写る手頃な屈折鏡筒をお探しの方には、選択肢のひとつになるはずだ。