レチクル座に明るい新星が出現
【2020年7月22日 VSOLJニュース】
著者:前原裕之さん(国立天文台)
レチクル座は南天の星座で日本からは見ることが困難な小さな星座です。そのレチクル座の中に5等級の明るい新星が発見されました。
新星を発見したのはオーストラリアのRobert H. McNaughtさんです。McNaughtさんは7月15.590日(世界時、以下同。日本時では23時10分ごろ)焦点距離8mmのレンズとデジタルカメラで撮影した画像から5等級の新天体を発見しました。この天体の位置はMGAB-V207と呼ばれる16-18等ほどの明るさの激変星の位置に非常に近いことがわかり、この激変星が11-13等も明るくなったと考えられました。天体の位置は以下のとおりです。
赤経 03h58m29.55s 赤緯 -54°46′41.2″(2000年分点)
さらに、発見前の全天カメラの画像から、この天体は7月7.79日までは5.5-6等より暗かったものの、8.78日には5.4等、11.76日には3.7等ほどにまで明るくなっていたこともわかりました。
オーストラリアのR. Kaufmanさんや南アフリカ大型望遠鏡(SALT)、オーストラリア国立大学の2.3m望遠鏡で行われた分光観測で、この天体のスペクトルに水素のバルマー系列や中性酸素、1階電離した鉄の輝線が見られることがわかりました。これらの輝線はP Cygniプロファイルを示しており、吸収成分は輝線に対して秒速2700kmほど青方偏移していることもわかりました。このようなスペクトルの特徴から、この天体が極大を過ぎた古典新星であることがわかりました。
ガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」の観測によると、この新星はガンマ線でも明るくなったことがわかりました。7月10日に最初にこの天体の方向からのガンマ線が検出され、翌11日には見えなくなったものの、12-15日には再びこの天体からのガンマ線が検出されました。この新星の方向にはガンマ線で明るい既知の天体はなく、新星爆発に伴なって放出されたガンマ線であると考えられます。
MGAB-V207のような激変星は、白色矮星の主星とロッシュローブを満たした主系列星の伴星からなる連星です。このような天体では、主星である白色矮星の表面に伴星から流れ込んだ水素が十分に降り積もれば、新星爆発を起こすと考えられています。過去に新星爆発を起こしたことが知られていない激変星が新星爆発を起こした例は、2018年に中村祐二さんが新星爆発を発見したペルセウス座V392に次いで、このレチクル座新星が2例目となります。
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