まだ目が離せない、再帰新星かんむり座T

このエントリーをはてなブックマークに追加
予想されていた新星爆発の期間を過ぎてしまった「かんむり座T」だが、これで爆発が起こらなくなったわけではない。ここまでの状況をまとめておこう。

【2024年10月7日 高橋進さん】

B. E. Schaeferさんたちによって、2024.4±0.3年ごろ、つまり今年の2月から9月の間で新星爆発が起こると予想された再帰新星(反復新星、回帰新星)の「かんむり座T(T CrB)」ですが、残念ながら9月末を過ぎた現在もまだ爆発は観測されていません。今回の経緯を振り返ってみましょう。

まず2015年くらいに、かんむり座Tがそれまでより0.5等ほど明るくなったことで、前回爆発(1946年2月)の約8年前である1938年の光度変化に似ていることが指摘されました。この変化により、かんむり座Tは2025.5±1.3年ごろ、つまり2024年2月から2026年10月の間で爆発するとの予想が出されました。さらに2023年3月ごろから光度が徐々に暗くなっていく様子がとらえられ、この現象が1945年1月、つまり前回の爆発の400日前に見られたことから、今回の爆発は今年の2月から9月の間で起こると予想されました。前回はV等級で12.3等くらいまで、またB等級で12.0等くらいまで暗くなった後に新星爆発が起こったことを考えると、今回も同様の光度変化の後に爆発するだろうと期待されました。

この予想をもとに、世界中の変光星観測者や天文ファンが毎夜、かんむり座Tの光度変化に注目しました。次の図は日本変光星観測者連盟(VSOLJ)のメーリングリストに寄せられたかんむり座Tの光度曲線です。かんむり座Tは赤色巨星と白色矮星の近接連星ですが、白色矮星の引力によって赤色巨星が楕円形になっていると思われ、そのため連星系の公転周期によって光度が変化して観測されます。実際には公転周期の227日に対して見え方はその半分の周期で変わるため、光度曲線は113日の周期で変動しています。

かんむり座Tの光度
(上)2022年から2024年のかんむり座Tの光度、(下)カラーインデックス(値が大きいほど赤い)(VSOLJのデータベースから高橋さん作成)

この光度曲線からも、かんむり座Tが2023年2月ごろから少しずつ減光していく様子がわかります。とくにこの減光はB等級(波長440nmを中心とした青い色での等級)で明確に見られました。V等級よりB等級で減光が顕著である、つまりB等級でより暗くなっているということは、色あいがより赤っぽくなっていることを意味しています。B等級からV等級の値を引いたB-Vの曲線(前図の下)でも、2023年2月ごろを境として1.0から1.5くらいまで変わってきていることが確認されました。これについては連星系を取り巻く塵による赤化ではないかともいわれました。

ところが、かんむり座Tの減光は2023年の秋ごろからは横ばいになってしまいました。それどころか、2024年の春くらいからは少しずつ明るさが増してきました。減光が顕著だったB等級なども、明らかに元の等級に再び近づいています。こうした状況で、Schaeferさんによる爆発予想期間の終わりである9月末を迎えてしまいました。

しかし、かんむり座Tの光度変化が元に戻ったわけではありません。2023年2月以降の113日周期の光度変化は、これまでよりとても大きくなっています。このような光度変化はこれまでとはまったく異なったもので、非常に活動的な状態であることははっきりと見て取れます。そうした意味では、いつ爆発が起こっても不思議のない状況は今も続いています。

10月になり、かんむり座は夕方には西の空に傾いていて、21時ごろには沈みます。それでも11月くらいまでは夕空で観測が可能ですし、12月になれば明け方の東の空で観測できるようになります。観測条件は厳しくなってきましたが、およそ80年に一度の明るい再帰新星の観測チャンスです。爆発の期待はますます高まっているとも言えます。多くの皆さんによる観測を、引き続きよろしくお願いします。

かんむり座の位置
かんむり座の位置。うしかい座の1等星アルクトゥールスの上に光る、2等星アルフェッカが目印になる(「ステラナビゲータ」で星図作成)

かんむり座T周辺の星図
かんむり座T周辺の星図。数字は恒星の等級(42=4.2等)を表す(ステラナビゲータで星図作成、比較星光度はAAVSOによる)

〈関連リンク〉