予測よりも速い宇宙の膨張速度

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遠方銀河の距離の正確な測定から、ハッブル定数の値が73.2と高精度で求められ、宇宙の膨張速度が従来の予測よりも速いことが示された。

【2016年6月6日 HubbleSiteW. M. Keck ObservatoryJohns Hopkins University

ジョンズホプキンス大学のAdam Riessさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)と米・ハワイのケック望遠鏡を用いた観測で、現在の宇宙の膨張率を測定した。

宇宙の膨張率は、ある銀河までの距離とその銀河の後退速度(私たちから遠ざかっていく速度)から知ることができる。銀河までの距離を測定するため、研究チームではケフェイド変光星とIa型超新星の両方が存在する銀河を探し出した。

銀河UGC 9391
りゅう座の銀河UGC 9391。○の部分はケフェイド変光星、×の部分はIa型超新星2003du(提供:NASA, ESA, and A. Riess (STScI/JHU))

ケフェイド変光星の変光周期は絶対等級と関係があり、周期から本来の明るさを知ることができる。また、Ia型超新星は遠方にあっても観測できるほど明るく、本来の明るさが全て一定とされている。どちらも真の明るさを理論的に知ることができるので、それと見かけの明るさとを比較することで、天体まで(=天体が属する銀河まで)の距離を求められる。

ハッブル定数を求めるための3ステップ
ハッブル定数を求めるための3ステップの説明図。天の川銀河の中(太陽系の近く)はケフェイド変光星とその視差、近傍銀河はケフェイド変光星とIa型超新星、遠方銀河はIa型超新星を用いて測定。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, A. Feild (STScI), and A. Riess (STScI/JHU))

研究チームは、両タイプの天体が存在する銀河までの距離を測定してデータを較正し、さらに遠方銀河に存在する約300個のIa型超新星までの距離を計測した。

一方、銀河の後退速度は、銀河からの光の波長がどの程度引き伸ばされているかを測定して知ることができる。銀河の距離と後退速度から求められた、「ハッブル定数」として知られる宇宙の膨張率を表す値は、73.2 km/s/Mpcとなった。これは、1Mpc(メガパーセク:約326万光年)離れるごとに膨張速度が秒速73.2km大きくなるということを表している。

今回求められた現在の宇宙のハッブル定数は、不確定性が2.4%しかない極めて正確な値である。しかし、ビッグバンの残光である宇宙背景放射の観測から予測されるものとは合致しない。NASAの人工衛星「WMAP」による観測から予測される値は今回の結果より5%小さく、ヨーロッパ宇宙機関の人工衛星「プランク」のデータによる予測は9%小さいのだ。

この違いは、宇宙を加速膨張させているダークエネルギーのふるまいや、ダークマターの未知の性質によって説明できる可能性がある。「今回の結果は、宇宙の95%を占めているダークエネルギーやダークマター、暗黒放射といったものの謎に迫る、重要な手がかりになるかもしれません」(Riessさん)。

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