10億個以上の星を記録、「ガイア」の初カタログ公開
【2016年9月20日 ヨーロッパ宇宙機関】
ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」は、史上最も詳細な天の川銀河の立体星図作りを目的として2013年12月に打ち上げられた。2014年7月に科学観測を開始し、11億4200万個の星の明るさと正確な位置を調べてきた。打ち上げから1000日目となる9月14日に公開されたカタログは2015年9月までの14か月間に取得されたデータに基づくもので、200万個以上の星については距離と動きも得られている。
この200万個というデータ数は、1989年に打ち上げられた衛星「ヒッパルコス」の観測データから作られ、恒星の距離(視差)と動き(固有運動)の標準的データとして広く使われているヒッパルコス・カタログの20倍もの数で、そのデータの精度もヒッパルコス・カタログより2倍も高い。
たとえば、ヒッパルコスは地球から1600光年までの距離に位置する約80個の星団しか観測できなかったが、ガイアのデータからは4800光年までの約400個の星団に含まれる星の動きと位置がわかる。今後、ガイアが取得し続ける並外れたデータからより多くの星団が発見され、詳細な分析が行われるだろう。星の位置と動きを精密に知ることは、天の川銀河の歴史や特徴の研究の基本情報となる。
また、今回のデータには、ケフェイド変光星など周期光度関係を示す変光星も多数含まれている。これらの星は変光周期から絶対等級がわかり、それと見かけの明るさを比較することで距離を知ることができる天体だ。その光度変化から導かれた距離を、ガイアが測定した星の視差から求めた距離で較正すれば、周期光度関係の精度を高めることができる。すると、こうした変光星を含む遠くの銀河までの距離測定がより正確になるというわけだ。
さらに、ガイアのデータは、天の川銀河の星図作成やその外の銀河までの距離測定だけでなく、太陽系内といった近い宇宙についても様々な応用ができる。
たとえば、今年7月に起こった冥王星が遠方の星を隠す現象の観測にも、ガイアのデータが重要な役割を果たしている。星の姿が徐々に消え再び冥王星の背後から現れる様子を観測することは、冥王星の大気を研究する貴重な機会となるが、こうした星食観測には星の位置に関する精密な情報が必要だ。ガイアによる観測により、隠される星の位置がこれまでの10倍以上も正確にわかっていたおかげで、この珍しい現象の観測が成功したのである。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関: Gaia's Billion-Star Map Hints At Treasures To Come
- Astronomy &; Astrophysics: 論文
- Gaia data release 1. Pre-processing and source list creation
- Gaia data release 1. Astrometry: one billion positions, two million proper motions, and parallaxes
- Gaia data release 1. On-orbit performance of the Gaia CCDs at L2 論文
- The Gaia mission
- Gaia Data Release 1. Summary of the astrometric, photometric, and survey properties
〈関連リンク〉
- ヨーロッパ宇宙機関: http://www.esa.int/
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