重力レンズが見せたガンマ線フレアのリプレイ
【2016年11月9日 IAC】
アインシュタインの一般相対性理論によれば、大質量の天体の重力がレンズのような働きをすることで、そのレンズ源の向こうにある天体の像がゆがんだり明るく見えたりする。この重力レンズ効果によって、遠方にある非常に暗い天体も見ることができるようになる。
さらに、レンズ中の異なる経路を通った光はある時間差で地球に届くので、その光の明るさが変われば、同じ変光が繰り返して見えることになる。
観測史上最遠となる高エネルギーガンマ線源の発見も、地球とガンマ線源との間にある巨大銀河による重力レンズ効果のおかげで可能となったものだ。
さんかく座の方向に位置する「QSO B0218+357」は、活動的な銀河中心の超大質量ブラックホールから強い放射が見られる「ブレーザー」と呼ばれる種類の天体(クエーサーの一種)だ。このブレーザーで70億年以上前に巨大爆発が起こり、非常に高エネルギーのガンマ線フレアが発生した。
放射されたガンマ線は発生から10億年以上後に、ブレーザーと地球との間に位置する別の銀河「B0218+357G」を通過し、2014年7月14日に地球に届いてNASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」で観測された。ガンマ線アウトバースト検出の報告を受け、遠方宇宙で起こった爆発的現象を観測しようと世界中の多くの望遠鏡が即座にブレーザーへと向けられた。ラパルマ天文台のMAGIC望遠鏡もこの天体を観測しようとしたが、あいにくこの夜は満月であった。
しかし、2012年にフェルミや電波望遠鏡で行われていた観測により、このブレーザーからの光のうち長い経路を通り重力レンズ効果を受けたものが11日後に地球に届くことがわかっていた。つまり、同じブレーザーからのガンマ線フレアを再観測できるチャンスがあることになる。
果たして11日後、MAGIC望遠鏡をQSO B0218+357に向けたところ、予測通り非常に高エネルギーのガンマ線フレアが観測され、QSO B0218+357が観測史上最も遠い高エネルギーガンマ線源であることが確かめられた。
〈参照〉
- IAC(Instituto de Astrofísica de Canarias): MAGIC observes a gravitational lens at very high energies
- Astronomy & Astrophysics:Detection of very high energy gamma-ray emission from the gravitationally lensed blazar QSO B0218+357 with the MAGIC telescopes 論文
〈関連リンク〉
- MAGIC望遠鏡: https://magic.mpp.mpg.de/
- ガンマ線天文衛星「フェルミ」: http://fermi.gsfc.nasa.gov/
関連記事
- 2024/09/18 活動銀河核とかげ座BLが増光
- 2024/09/06 宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- 2024/06/24 「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール
- 2024/03/05 超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
- 2024/02/19 減光を続けるクエーサー3C 273
- 2024/02/08 初期宇宙のクエーサーから強烈に噴き出す分子ガス
- 2023/12/22 初期宇宙にも存在したクエーサー直前段階の天体「ブルドッグ」
- 2023/12/12 遠方宇宙に多数の活動的な大質量ブラックホールが存在
- 2023/09/19 クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
- 2023/09/08 ダークマターの小さな「むら」をアルマ望遠鏡で初検出
- 2023/07/04 129億年前の初期宇宙でクエーサーの親銀河を検出
- 2023/06/15 宇宙再電離の現場を初めて直接観測
- 2023/04/12 観測史上最遠の二重クエーサー、実在を確認
- 2022/11/28 クエーサーから絞り出されるジェットの根元
- 2022/11/11 活動銀河核とかげ座BLが急増光
- 2022/10/27 115億年前の初期宇宙で形成中の原始銀河団
- 2022/10/05 宇宙の第一世代の恒星が残した痕跡、発見か
- 2022/09/07 クエーサーの変光を予言する重元素のスペクトル
- 2022/08/30 宇宙再電離は銀河が多い領域ほど早く進行
- 2022/07/27 クエーサーの構造を反映する銀河周囲のガスの非等方性