「あかつき」、金星に赤道ジェットを発見

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探査機「あかつき」の観測データから、2016年7月に金星の高度50km前後の風の流れが赤道付近に軸をもつジェット状になっていたことが明らかにされた。

【2017年8月30日 JAXA宇宙科学研究所北海道大学

金星は大きさが地球に近く、公転軌道も比較的近いことから、地球の双子星と呼ばれることがある。しかし、金星の大気はほぼ全体が自転よりもはるかに速く回転するなど、大気循環は地球とは大きく異なる。

たとえば、金星の自転周期は243日とゆっくりだが、高度約70kmの雲頂付近ではその60倍ほどの速さで大気が一周している。自転を「超える」流れという意味で「スーパーローテーション」と呼ばれているが、その発生メカニズムは未解明で、金星探査機「あかつき」によってその謎に迫る情報がもたらされることが期待されている。

「あかつき」による金星の夜面観測のイメージ図
「あかつき」による金星の夜面観測のイメージ図(提供:PLANET-C Project Team、以下同)

北海道大学/JAXAの堀之内武さんたちの研究チームは、「あかつき」の赤外線カメラ「IR2」の観測データから金星の風速を調べた。IR2は下層大気の熱放射による赤外線が雲を透過する際にできる「影絵」を観測して、高度約45~60kmにある分厚い中・下層雲を可視化することができる。

金星夜面の雲の模様の擬似カラー画像
IR2による金星夜面の雲の模様の擬似カラー画像。より多くの雲粒子が大気下層から来る赤外線を遮るため、雲が厚いところほど暗い。画像左側の白いところは昼面

すると2016年7月の観測データから、高度45~60kmの中・下層雲領域に、赤道付近に軸をもつジェット状の風の流れ「赤道ジェット」が世界で初めて見つかった。赤道ジェットはその後少なくとも2か月継続していた。また、2016年3月の低緯度の風速はやや遅く、ジェット状ではなかったことがわかっている。

従来ヨーロッパ宇宙機関の探査機「ビーナスエクスプレス」などの観測から、この高度帯の風速は水平一様性が高く時間変化も少ないと考えられてきており、この発見は予想外のものだ。低緯度で突出して速くなるという風速の水平構造は、観測が限られていた中・下層雲域だけでなく、数多く研究されてきた雲頂付近を含む他の高度帯でも観測例がない。

赤道ジェットが生じる原因は不明だが、この現象を説明できるメカニズムは絞られており、それらはスーパーローテーションについての諸理論と関わりがあることがわかっている。今後研究を進めることで、局所的なジェットのみならずスーパーローテーションの理論についても有用な知見が得られると期待される。

これまでにも「あかつき」の中間赤外カメラ「LIR」による雲頂の観測から巨大な「弓状構造」が発見されており、その弓状構造の特性から、観測が難しい地表面近くの大気の状態に関する情報が得られることがわかっている(参照:「あかつき」、金星に巨大な弓状構造を観測)。今後も「あかつき」データの解析を進め、数値シミュレーションによる研究と組み合わせていくことで、金星大気の解明が大きく進むだろう。この知見は将来的には、地球や系外惑星を含む幅広い惑星の大気についての理解にもつながるものと考えられる。

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