ダークマターの大海原に浮かぶ巨大原始銀河
【2017年12月13日 アルマ望遠鏡】
ビッグバンから数億年後の宇宙に存在した生まれたばかりの銀河は、現代の矮小銀河と共通点が多いと考えられている。数十億個の星が含まれる原始銀河が集まって、誕生から数十億年後の宇宙で大多数を占める大きな銀河になったというのだ。
しかし、アルマ望遠鏡による観測で、宇宙誕生からおよそ7億7000万年後の時代に非常に巨大な銀河が見つかった。宇宙の年齢が現在のわずか5%であったころに、銀河の構成要素となる小さな星の集団が予想以上に短い時間で合体し、巨大銀河の形成が進んでいたことを示す結果である。
米・アリゾナ大学のDan Marroneさんたちの研究チームがアルマ望遠鏡で観測したのは、とけい座の方向に位置する「SPT0311-58」と呼ばれる天体だ。南極点望遠鏡で発見された当初はこの天体は1つに見えており、赤外線の強さなどから、塵が極めて多く爆発的な星形成が進んでいる銀河であることが示唆されていた。
アルマ望遠鏡と重力レンズ効果を利用した詳細な観測により、この銀河までの正確な距離が求められ、さらに実は衝突しつつある2つの銀河であることがわかった。2つの銀河間の距離は非常に小さく、地球から天の川銀河の中心まで(約2万6000光年)よりも近い。このため2つの銀河はほどなく合体し、この時代に発見されたものとしては史上最大の銀河になると考えられている。
発見された原始銀河が存在しているのは、「宇宙の再電離」と呼ばれる時代だ。この時代には、宇宙で一番最初に誕生した星々が放つ紫外線によって宇宙を満たしていた中性水素ガスが電離され、紫外線が遠くまで届く現在のような透明な宇宙になったと考えられている。「これまでは『宇宙の再電離時代には、小さな銀河が周囲のガスを少しずつ電離していった』という見解が普通でした。しかしアルマ望遠鏡の観測に基づけば、宇宙の最初期から巨大な銀河が存在していたようなので、この見解は改める必要があります」(Marroneさん)。
観測された銀河の像は重力レンズ効果によって歪められているが、コンピューターモデルで元の像を得ることができる。天体像の再構築の結果、2つの銀河のうち大きい方では1年間に太陽2900個分もの星が誕生していることがわかった(天の川銀河では1年間に数個程度)。また、この銀河には太陽2700億個分の質量のガスと太陽30億個分の質量の塵が存在することもわかった。天の川銀河の質量は太陽約1000億個分なので、とても巨大な銀河だ。「この銀河がとても若いことを考えると、塵の量はあまりに莫大です」(米・テキサス大学 Justin Spilkerさん)。
研究チームでは、この激しい星形成活動はもう一方の小さい銀河との近接遭遇によって引き起こされたと考えている。小さい方の銀河にも太陽350億個分の質量の星が存在し、1年間に太陽540個分の星が生まれている。
今回の観測では、2つの銀河を取り巻く巨大な暗黒物質の集まり(ダークマターハロー)の存在も示唆された。計算や理論予測によると、ハローの質量は太陽の数兆個分にも及ぶとみられており、宇宙再電離時代における最大級のものの一つであることがわかった。
巨大な原始銀河やダークマターハローの発見は、巨大銀河の誕生と宇宙における巨大構造形成に対して暗黒物質が果たす役割を解明するうえで、重要な手がかりを与えてくれるだろう。
「次のアルマ望遠鏡の観測では、銀河がどれくらい早いペースで作られるのかを理解し、宇宙再電離期における巨大銀河の理解を進めることができるでしょう」(Marroneさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:ダークマターの大海原に浮かぶ巨大な原始銀河
- Nature:Galaxy Growth in a Massive Halo in the First Billion Years of Cosmic History 論文
〈関連リンク〉
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