ブラックホールに引き裂かれた星で作られたジェット
【2018年6月21日 アメリカ国立電波天文台】
2005年1月、おおぐま座の方向約1億5000万光年彼方にある衝突銀河Arp 299の中心部分が、赤外線で急に明るくなった様子が観測された。同年7月には同じ場所から新しい電波放射もとらえられた。
Arp 299は数多くの恒星が爆発しており、「超新星工場」とも呼ばれている銀河だ。今回の現象も最初は超新星によるものと考えられていた。しかし、アメリカやヨーロッパの電波望遠鏡などで10年近くにわたって継続的にこの現象を観測したところ、電波の放射源が一方向に伸びていく様子がとらえられた。このことから、現象は超新星によるものではなく、銀河中心のブラックホールの近傍から放射されるジェットであることが確認された。ジェットは光速の4分の1ほどの速さで伸びている。
このジェット放射は、Arp 299で起こった潮汐破壊現象からの一連の過程によるものとみられる。
Arp 299を構成する2つの銀河のうち一方の中心には、太陽の2000万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する。そこに太陽の2倍以上重い恒星が近づき、ブラックホールの重力によって破壊されたことで、ブラックホールの周囲に星の物質でできた回転円盤が形成された。理論的には、円盤から強いX線と可視光線が放射され、円盤の両極方向に高速ジェットが噴出すると考えられている。そのジェットが実際に観測されたということだ。
「こうした現象でジェットが発生し伸びていく様子を直接観測できたのは、今回が初めてです。潮汐破壊現象によって、ジェットの形成と発展に関する理解が進みます」(スペイン・アンダルシーア天体物理学研究所 Miguel Perez-Torresさん)。
「今回の現象は、時間が経っても赤外線や電波では明るいままでしたが、可視光線やX線では観測できませんでした。一番可能性が高い説明は、銀河中心に存在するガスや塵でできた厚い星間物質によって可視光線やX線が吸収され、赤外線が再放射されたというものです。可視光線の観測では、潮汐破壊現象はこれまで見過ごされてきたのかもしれません。赤外線や電波の観測から、より多くの現象を発見し研究することができるようになるでしょう」(フィンランド・トゥルク大学 Seppo Mattilaさん)。
〈参照〉
- アメリカ国立電波天文台:Astronomers See Distant Eruption as Black Hole Destroys Star
- Science:A dust-enshrouded tidal disruption event with a resolved radio jet in a galaxy merger 論文
〈関連リンク〉
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