1回目と2回目で、天文台の建設と計画における"失敗しないためのポイント"をお話しました。私が取り上げた内容は、どんな天文台の建設プロジェクトにもあてはまりますので、ぜひ参考にしてください。
さて、今回は私のIRO(Ironwood Remote Observatory in Hawaii)について詳しくお話したいと思います。
われわれが天文台のプロジェクトを始めたとき、あることに気づきました。それは、より少ない投資で、しかも環境にやさしく、かつさまざまな場所に設置できなければならないということでした。
私が考える天文台が持つべき特性は次のようなものです。
- スタンダードなデザインでの建設
- 長い間の使用に耐えられる頑丈さ
- 外部からの進入防止と安全性を配慮したセキュリティ
- 輸送が可能であること
- 温度差と負荷に耐えられる電子部品
- システムの安全面での機能
- セルフチェックシステム
- (公共の電気が通っていない地域における)電源の確保とインターネット
では、以上の点について、1つずつ詳しく見ていきましょう。
スタンダードなデザインでの建設
スタンダードなデザインの構築は、CADソフトを使って詳細な部分まで行うことができました。詳細ができあがれば、デザインスケッチをもとに、どういうものを建設しようとしているのかという、われわれの意図を関連するそれぞれの業者に理解してもらうことができます。また、アイデアを提案してもらうことも可能になります。これは、コスト面においてもたいへん有効です。
第2回に掲載した写真は、最初のコンセプトに基づいてつくられた“IRO”です。われわれにとって、最初のIROは学習のための教材であり、売買するつもりもありません。あくまで、デモンストレーション目的と将来の開発のために使用しています。
長い間の使用に耐えられる頑丈さ
移動を前提としていても、天文台は望遠鏡のための頑丈なブラットフォームであるべきです。直径25cmのセメント製の柱と厚さ10cmの基礎をもつIronwood Observatoryのドームのような、しっかりとしたものを造らなければなりません。
この目的を達成するためのデザインは、そう簡単には思いつきませんでした。1つだけわかっていたことは、基礎だけでなく建物自体も頑丈でなくてはならないということだけでした。
頭の中で、身長190cm体重118kgもある私の体が建物の中でアラインメントを行ったりするようすを想像してみました。もし、私が動いた瞬間に、床と骨組みがこの重みに耐えられず曲がってしまったら?私のような人間が2人も建物の中にいたら・・・?
そこで、まずセメントの上に四角い鉄の塊を2つ並べ、その上に基礎部分用にホームセンターで選んだ頑丈そうな鋼材を渡して、浮かせた状態にしてテストを行いました。そして、ダイヤルインジケーターを使って、たわみを計測したのです。天文台のなかで私が動くことを想定して、体重を上下にシフトさせながら、鋼材の上に立ってみました。その結果をもとに、実際に使用するものを選び、注文しました。基礎の骨組みは、軽くて丈夫な、中が四角い空洞になっている部材を使用しました。屋根の構造では、とくにCADソフトが活躍しました。
次に、天文台の形や大きさを決めるために、どのような作業を行うのかを説明しましょう。まずは、私の持っているなかで、もっとも大きくて、長い望遠鏡を組み立てて三脚に設置します。そして、望遠鏡を動かしながら、あらゆる方向への動きを計測します。さらに、もっと大きな望遠鏡を仮定した動きを考慮して、余分に空間を確保します。私は、屋根を閉じた場合でも、望遠鏡をあらゆる方向に動かせるようにしたかったのです。そうすれば、建物自体をどんな方向にも設置でき、極軸合わせも、じゃまされずに行うことができるからです。
骨組みができあがると、次はそれをグラスファイバーで覆いました。内装は、壁、床、キャビネットも断熱性のあるマリンプライウッドと呼ばれる合板を使用しました。この材質は熱を吸収したり、保ったりしないので、夜間の観測でもドームをすぐに冷やすことができます。
なお今後は、内側と外側に絶縁性のグラスファイバーを施した設備一式が、規格化された製品として生産されることになるでしょう。
外部からの進入防止と安全性を配慮したセキュリティ
屋根部分はスムースに動くように、南中時にじゃまされないように設計しなければなりません。そしてドームを閉じても水漏れしないことが重要です。その上、屋根の動きも、2つに分かれた部分を連動させなければならず、技術的な設計も要求されました。
重さ544kgもあるモーターは、水漏れが保証されているのですが、その代わりに人力で移動するのはたいへんです。そこで、回転数が数十万回という工業用のモーター設備を採用しました。
続いて、安全性の問題についてです。あなたがドームに近づいてみると、建物の外側にスイッチが無いことに気づくことでしょう。建物内のコンピュータに直接アクセスするか、外部からインターネットを使ってアクセスしなければ、ドームは開くことはありません。また、ドームに行くたびに携帯できる簡単なリモコンも装備しました。
また、万一の事故などの場合に備えて一時的に屋根の動きを止めるための安全ビームも装備してあります。もし、夜間にドームが開いていて、そこから進入する場合、はしごを使うことになるでしょう。もちろん、侵入が危険であること(最悪の場合、手足などの切断もありえます)を記した看板を設置しますが、実は安全ビームが遮られると屋根の動きは一時的に止まります。また、いざという時の場合、あなたが建物の中にいれば、完全に閉め切ることができますので、あとは警察の到着を待つだけです。
温度差と荷重に耐える電子部品
建物ができあがり、次は建物に息を吹き込む段階に入りました。ドームが工場で組み立てられている間に、部品選びや屋根の制御システムの設計を始めました。完成後、ドームがさらされる環境を考慮して、すべての部品は温度差に耐えられるものを選びました。また、決して平らではないでこぼこ道での移動の際にかかる荷重も想定しました。
われわれが選んだすべての部品については、通常の工場の生産ラインで作られているもので、磨耗するということはまず考えられません。私たちが採用した部品は、一日に数千回の使用を前提に設計されているものであり、実際に屋根が稼動するのは、一晩に数回なのですから。
なお、部品を選ぶ際は、それが今後も使用できるものであるかを考えて選ぶことが大切ですので、お忘れなく。
輸送が可能であること
天文台を輸送するという点も、デザイン面においてなかなか厄介な問題でした。鋼材を切断する前にも、いくつか考えておくべきことがありました。
- 道路の幅に対して、大きさはだいじょうぶか?
- 他の国や離島などへ船で運べるか?コンテナに収まるのか?
- 目的地に着いてから、いか設置作業に移行するか?
まず道路の幅については、車輪までの幅を制限値の2.286メートルに収めることで対応できました。
また、天文台は、一般の車と同じようにはしけに載せることが可能です。残念ながら、コンテナには入りませんが、運搬中は保護材で覆って、決して開けられないようになっています。
また、運搬から設置へは、何回か経験することで学ぶことができました。今では、セメントやアスファルトなどを施した場所に直接しっかり設置できます。また、頑丈で調整可能な脚を使えばふつうの地面にも設置でき、三脚では天文台を水平にすることができます。そのほか。アウトリガー(横に腕のように張り出した安全装置)を付け加えれば、横方向の動きを取り除けます。われわれは、いずれの場合でも、簡単に天文台を地面に安定させることができます。
次回
だいぶ長くなりましたが、次回は残りの特性について、説明を続けたいと思います。
さらに、われわれは、古いミード 200mm F6.3と取り替えるために、日本製の望遠鏡を購入しました。このことについても、設置から望遠鏡が使用できるようになるまでを詳しく解説していく予定です。
なお、先月2つのカレッジのオープンハウスで、プレゼンテーションを行いました。写真は、ハワイ大学の天文学研究所で行われた“Open House 2009 Family Lecture” というイベントに参加したときのものです。
では、次回をどうぞお楽しみに、”Aloha from Hawaii !”
※Ironwood Observatory(Ken Archer氏)による、リモート天文台の建設やそのほかのサービスに関する問い合わせは、「お問い合わせフォーム」から、(営業部宛まで)ご連絡ください。