宇宙膨張の速度測定に利用される天体のなぞが解けた
【2010年7月5日 東京大学 数物連携宇宙研究機構】
Ia型の超新星は、宇宙の膨張速度の測定に利用される天体(標準光源)として、最新の宇宙論研究の中心的な存在である。そのIa型の超新星の爆発の形状が、丸ではなく、非対称のいびつな形であることが示され、宇宙論に関わるIa型超新星に関する長年のなぞが解決されることとなった。
超新星は、星が一生の最期に起こす大爆発である。中でも、Ia型と呼ばれる超新星は、光度の変化のようすから本来の明るさを推定することができるので、見かけの明るさと比較することで、その超新星までの距離を測定することができる。
Ia型の超新星爆発は、連星系を構成する白色矮星に相手の恒星から物質が降り積もり、質量が限界に達して起きる暴走的核融合である。白色矮星が自分の重さを支えられる質量の上限は太陽質量の1.4倍で、これは「チャンドラセカールの限界質量」と呼ばれている。
爆発前の星にチャンドラセカール質量という決まった質量が存在しているのだから、理論的にIa型は個性のない天体であるはずだ。しかし、明るさだけを見ると同じように見えるIa型であっても、光を波長ごとに分けるスペクトル観測によって、スペクトルの進化するスピードの速いものと遅いものが存在していることが1980年代後半に示された。
2005年にはそのことが間違いのない事実として確立されたが、その後、スペクトル進化の違いの理由は今日まで明らかにされることはなく、Ia型の超新星は、本当に精度のよい標準光源なのか、チャンドラセカール質量の白色矮星という種類の星の爆発なのかが疑問視されてきた。
数物連携宇宙研究機構(IPMU)の特任助教 前田啓一氏を中心とした国際的な研究チームが、その長年のなぞに答えを出した。
研究チームでは、爆発から半年ほど(※)経った20個ほどの超新星のスペクトルを調べた。スペクトル観測では、光を放出している物質の分布・形状を特定することが可能だ。これは、観測者に近づいてくる物質からの光はもともとの色よりも青くなり、遠ざかる物質からの光は赤くなるという(光の)ドップラー効果に基づいている。
研究チームは、爆発の発生直後につくられるニッケルなどの元素からの光が、本来の色よりも光のドップラー効果によって青くなったり赤くなったりしていることを発見した。これは、暴走的核融合が中心からずれた場所で発生した(ニッケル等の分布の中心は爆発中心と一致しない)証拠だ。暴走的核融合が白色矮星の中心で発生する「丸い」爆発の場合、このような色の変化は起こり得ず、本来の色が観測されるはずなのである。
前田氏は「Ia型超新星に見られるスペクトルの多様性は、爆発の形状が非対称であるために、見る角度によって生じるものであることがわかりました。わたしたちの研究は、非対称の爆発をIa型超新星の一般的な特徴とする、数年前に提唱された考え方を支持する結果となりました。これで、Ia型超新星に関する理論と観測がやっと一致しました」と話しており、今回の成果により、Ia型超新星への理解が飛躍的に進み、より精度の高い宇宙論研究への道が拓けることが期待されている。
※爆発発生から最初の半年くらいの間は、物質が濃いために中心近くにある物質(もともとの星の中心近くにあった物質)を見通すことができない。