地球の火山と銀河に潜むブラックホールの類似点
【2010年8月23日 Chandra X-ray Observatory】
M87銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールの活動によって、星の材料となる冷たいガスが銀河の中心から外側へ運ばれたり衝撃波が起きたりしていることを示す観測結果が得られた。地球上にある巨大な火山でも、今年4月にとてもよく似た現象が見られていた。
M87は、おとめ座銀河団の中心部に位置する巨大な銀河だ。おとめ座銀河団は数千個の銀河の集まりで、地球から比較的近い約5000万光年の距離にある。
M87を取り巻く銀河団内には、X線で輝く高温のガス(画像中:青の擬似カラー)が満ちている。そのガスが冷えると銀河に向かって落ち込み、銀河の中心ではさらに温度の下がり方が早まり、新しい星が誕生する。
NASAのX線観測衛星チャンドラとアメリカ国立科学財団(NSF)のVLA(超大型電波干渉計)がM87を観測し、そのうちVLAによる電波観測(画像中:赤とオレンジの擬似カラー)の結果から、ブラックホールによって作り出される高エネルギー粒子のジェットが、上記のような星形成につながるプロセスを邪魔していることが示された。
ブラックホールには物質が流れ込んでおり、周囲に円盤が形成されている。しかし、すべての物質が落ち込むわけではなく、その一部は円盤に垂直な方向へジェットとなって超高速で放射されている。そのジェットによって、銀河の中心付近にある比較的低温のガスが持ち上げられ、超音速となるため衝撃波が発生していることがわかったのである。
M87に見られた現象は、今年4月にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル(Eyjafjallajokull)火山で起きた現象と、とてもよく似ている。同火山は、今年4月に爆発を起こし、上空に巻き上げられた大量の火山灰によってヨーロッパ各国で航空機の運航に影響が発生した山だ。
エイヤフィヤトラヨークトル火山では、複数の高温ガスの集まりが灰色の煙の中を進んで、衝撃波が形成された。さらに高温のガスが大気中へ上昇して、黒い火山灰もいっしょに吹き上げられた。
チャンドラのウェブページでは、火山活動によって発生した衝撃波が煙の中を伝わって黒い灰の雲をつくり、雲が上昇しながら広がっていくようすをとらえた動画が公開されている。
M87でも、この火山に見られるように、ブラックホールに近い領域で生成された高エネルギー粒子が銀河団内にあるガスの中を移動し、銀河の中心付近にあった冷たいガスをいっしょに持ち上げたのだ。
チャンドラとVLAは、M87のブラックホールの活動によって、銀河団内のガス中に高エネルギー粒子が注ぎ込まれてできた衝撃波や、ジェットによって銀河の中心から外側へ向かって運ばれた冷たいガスのようすを見せてくれたのである。