観測・理論・実験で解き明かされた小惑星の衝突と3つの尾
【2011年10月20日 すばる望遠鏡】
国立天文台、JAXAなどからなる国際研究チームが「すばる望遠鏡」と「むりかぶし望遠鏡」を用いた観測で、小惑星(596)シャイラに現れた3つの尾の成因を明らかにした。これは理論によるシミュレーション、衝突実験によってなされたもので、小惑星同士が衝突した日付やその方向までもが世界で初めてわかった。
太陽系が形成されて以来、微惑星の衝突合体による惑星の形成やジャイアントインパクトによる月の形成など、天体同士の衝突は数多く起きてきたと考えられている。現在でも木星に小天体が衝突した跡や小惑星同士の衝突などが数少ないながら報告されており、探査機「はやぶさ」が訪れた小惑星イトカワも衝突によってできた破片同士が再集積して形成されたと考えられている。
小惑星(596)シャイラ(注1)も小惑星同士の衝突が観測された数少ない例の1つであるが、衝突による増光が発生した当時から彗星のような、しかし1つではなく3つもの、尾を持っていることが報告されていた(画像1枚目)。
なぜ3つもの尾を持っているのかはこれまでよくわかっていなかったが、石垣島の「むりかぶし望遠鏡」とハワイの「すばる望遠鏡」による観測に、室内衝突実験とそこから導き出された理論モデルの数値シミュレーションを組み合わせた結果、尾の成因を解明することに成功した。
天体が衝突するなどして一度に大量のダストが発生すると、シンクロン(注2)と呼ばれる直線状の構造ができることが知られている。シャイラでも、むりかぶし望遠鏡とすばる望遠鏡によって、シンクロンの存在が確認された(画像1枚目下段)。このシンクロンが伸びている方向から、衝突した日付を特定することに成功した。また、衝突した天体の直径は20〜50mであること、シャイラには直径500〜800mのクレーターが形成され宇宙空間に数十万トンというダストが放出されたことがわかった。
室内での衝突実験から、天体表面に別の天体が衝突すると円錐状に放出物のカーテンができ、また衝突方向への高速放出流ができることが知られている。シャイラで見られる3つの尾もこの放出物のカーテンと衝突方向の高速放出流であると考え、モデルを構築し計算機によるシミュレーションを行った。
その結果、小天体がシャイラの進行方向に対して後方から追突したときにのみ、観測画像をうまく再現することができることがわかった(画像2枚目)。彗星活動の原因である氷の気化では、この3つの尾が説明できないという。
小惑星同士の衝突の観測例は非常に少なく、しかも小惑星の衝突日や方向が求められたのは世界で初めてのことだ。この研究は理論・実験・観測の3つが突発的な現象の謎を解く事に成功した三位一体の研究成果と言える。研究チームは「今後も太陽系内で起こる突発現象を観測するとともに、小惑星間の衝突やそれによって発生したダスト粒子の軌道進化を解析し、ダイナミックに進化する太陽系の姿を研究して行きたい」と語っている。
注1:「小惑星(596)シャイラ(Scheila)」 すばる望遠鏡のリリース文では「シーラ」となっているが、本記事では過去のニュースに合わせてシャイラと表記している。
注2:「シンクロン」 放出されたダストは太陽光の圧力と衝突された天体の重力の影響を受けるため、ダストのサイズと質量の関係から直線状に分布することが知られている。彗星のダストテイルなどでも見られる。