1200万光年かなたで見つかった“普通の”ブラックホール

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【2012年3月29日 スミソニアン・サイエンス

英大学の研究者らが、1200万光年先の銀河に「恒星質量ブラックホール」を発見した。銀河中心の大質量ブラックホールではなく、星が重力崩壊してできる「ありふれた」ブラックホールがこれほど遠方で見つかるのは初めてで、ブラックホールの分布を理解するうえで大きな一歩となる。


ケンタウルス座Aで発見された恒星質量ブラックホールの位置)

ケンタウルス座Aの恒星質量ブラックホールが発見された場所(矢印の先)。ケンタウルス座Aのダストの帯(可視光とX線が吸収されて暗くなっている場所)の中にある。大質量ブラックホールがひそむ活動銀河核や強力なジェットなど、他のいろいろな興味深い現象も写っている。クリックで拡大(提供:NASA/Chandra)

大質量ブラックホールの威力を見せてくれるケンタウルス座Aの姿

巨大質量ブラックホールの威力を見せてくれるケンタウルス座Aの姿。クリックで拡大(提供:NASA/Chandra)

1200万光年先にある電波銀河「ケンタウルス座A」に、「恒星質量ブラックホール」が発見された。このありふれたタイプのブラックホールがこれほど遠い銀河で発見されたのはこれが初めてである。

ブラックホールは常に注目を浴びている天体で、その性質は日常とはかけ離れたものであるが、実は宇宙のそこかしこに存在している。ブラックホールにはいくつかの種類がある。もっともありふれたものは、大質量の星が重力崩壊して超新星爆発を起こしたあとに形成される「恒星質量ブラックホール」だ。また、天の川銀河を含む多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍もの質量を持つ「超大質量ブラックホール」があることが知られている。

「恒星質量ブラックホール」は、どんな銀河にもそれぞれ数百万個はあると思われている。しかし、ブラックホールは光を放射しないため、通常の方法では検出が非常に難しい。ブラックホールが周りの物質を加熱して放射されるX線を検知するなどの方法で調べられているが、それでもブラックホールのほとんどは未だ発見されないままである。

近年、ブラックホールが伴星の物質を吸い込むとき発生するX線放射を探ることで、連星系に属するブラックホールを探す一連の方法が研究されている。この方法を用いて、天の川銀河内や近傍の銀河に存在する、連星系を成すブラックホールが発見されてきた。

英バーミンガム大学のMark Burke氏の研究チームがX線天文衛星「チャンドラ」で電波銀河ケンタウルス座Aを観測したところ、太陽の5万倍もの強さのX線源を発見した。その強度は1か月後には10分の1にまで弱くなり、その後さらに100分の1に、そしてやがて消えていった。

このような現象は連星系を成すブラックホールがアウトバースト(爆発的な増光)の最終段階で見せる特徴であり、天の川銀河にある似たようなブラックホールの典型でもある。この成果は天の川銀河の近傍以外で発見された恒星質量ブラックホールの初の例であり、遠方銀河のブラックホールの分布を調べる道を開いたものといえる。

「遠方銀河にも恒星質量ブラックホールがあることはわかっていましたが、実際に見つけるまでにはひと苦労でした。遠方になると検出が非常に難しくなりますが、それでも星の進化を正しく理解するためには、これらの天体を探さねばなりません。他の銀河の恒星質量ブラックホールが天の川銀河より少なかったり多かったりすれば、天文学の土台となる概念をくつがえすような発見となるでしょう」(Mark Burke氏)。

研究チームでは、ケンタウルス座Aにある他の数十個以上の強いX線源を観測・調査する計画を進めている。