星生成の名残りから、銀河の多重合体の歴史が明らかに
【2012年5月25日 すばる望遠鏡】
普通の銀河100個分もの赤外線を発する「ウルトラ赤外線銀河」。その1つ「アープ220」が4個以上の銀河の合体で形成されたものであることが、すばる望遠鏡を用いた観測で明らかになった。
太陽の1兆個分もの明るさで赤外線を放つ「ウルトラ赤外線銀河」は、爆発的なペースで生まれる星々の超新星爆発による銀河風が吹き荒れる不思議な天体だ。激しい星生成(スターバースト)の段階の後は、巨大ブラックホールをエネルギー源として非常に明るい放射をする「クエーサー」に進化すると考えられているため、宇宙の謎を解くのに非常に重要な天体とされている。
激しい星生成は銀河同士の合体が引き金となって起こると考えられるが、ウルトラ赤外線銀河が何個の銀河が合体したものかについては、2個の銀河からできたという説と、3個以上の銀河からできたという多重合体説に分かれて論争が続いてきた。
ウルトラ赤外線銀河はすでに合体がかなり進行しているため、どのような銀河が合体に参加したかを特定するのは難しい。そこで研究チームは、近くにあるウルトラ赤外線銀河の代表例「アープ220」内のスターバースト領域に注目した。銀河円盤での定常的な星生成とは異なり、爆発的な勢いで星が生まれるスターバースト領域は2つ以上の銀河が合体した証拠となるからだ。
研究では、水素原子の放射・吸収によって生じるHα線を目安に、「スターバースト中の領域」と「スターバースト後の領域」とをアープ220内で見分けた。
その結果、南北方向に細長く伸びる2本のテイル状の「スターバースト後の領域」が見つかった(画像1枚目)。こうした構造は「アンテナ銀河」(画像2枚目)など衝突銀河でよく見られるもので、2つの銀河が衝突した場合は1個の銀河につき1本、合計2本のテイルが出ると考えられている(画像1枚目と2枚目)。
つまり、アープ220で見つかった2本のテイルは、この銀河が2つの「スターバースト後の領域」の合体から成ることを意味する。1個の「スターバースト後の領域」が出来るには、銀河同士の合体、つまり2個以上の銀河が必要となる。したがって、アープ220は少なくとも4個以上の銀河の「多重合体」で出来たということになる(画像3枚目)。
発表を行った愛媛大学の谷口教授は「今後は、他のウルトラ赤外線銀河を系統的に調べ、多重合体の普遍性を検証していくことが大切な研究になります」と展望を語っている。